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秘密 4
あんなに「那津さん那津さん」ってうざいほど慕ってきて、常に見えない尻尾をブンブン振るくせに、生意気に師匠の俺に隠し事があるのか。
「いやいや、別に、隠し事の一つや二つ、いいんだけど……」
那津だって、小次郎に知られたくないことはある。
合コンの下見で絢華とニアミスだった時、正直に本当の事を言えなかった。
一方的に小次郎を責める資格は、もちろんない。
けれど……。
師匠だとか弟子だとか、そのことに絡む事柄なら、隠してほしくない。
包み隠さず教えてほしい。
――それとも、もう俺のことなんて、言ってるだけで師匠だなんて思ってないのかも。あいつは優しいから、俺に気付かせないよう気を遣って……。
そう考え始めたら、どんどん気持ちが落ちてくる。
『僕はもう大丈夫なので、那津さんは彼女作ってください』なんてあいつに言われたら、どうすればいいのかわからない。
ただの、男友達や親友なら、彼女ができたくらいじゃ壊れたりしない。
でも、今は。
自分の本当の気持ちを、知ってしまったから。
*
電車を降りて歩き出しても、気分はどんどん降下している。
気づいたら、駅裏のファミレスの前に立っていた。
自宅方面へ右折せず、線路沿いに歩いて来てしまったらしい。
ここは小次郎と初めて逢ったファミレスだ。
涙腺が緩みそうになり、あわてて自宅へ向かおうとした時、店内から出てきた人物とぶつかりそうになった。
「わっ」
「すいません!」
その相手を見て、思わず声を上げた。
「「あっ!」」
驚いたのは相手も同じだったようだ。
数時間前に小次郎が捜しに行ったはずの男。
牛谷だった。
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