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秘密 6
「あの男から、君には二度と近づくなと言われたから、俺はこの周辺で偶然君を見かけても、絶対に近づかなかったんだ」
「は?」
ーーどういうことだ? いつのまに?
「いや、ちょっと待って。ーーあいつと直接話をしたってこと?」
那津の問いかけに、牛谷は顔を上げて頷いた。
「そうだ。あの男は……」
しかし、その先の言葉を待っても一向に続かない。
牛谷はずっと周囲を気にしている様子だったが、那津の後方へ視線をぴたりと止めた。
そして、みるみる表情が強張っていく。
その視線の先を追うと、駅方面から小次郎が猛ダッシュで走ってくるのが見えた。
もの凄い速さで。
「那津さんから離れろ!」
牛谷は体をビクッと震わせて後ずさる。
「お、俺から近づいたわけじゃない! 偶然会ったんだ!」
「那津さんの視界に入るなという意味だ!」
小次郎は肩で息をしながら、那津を庇うように立つ。
数時間前に別れたばかりなのに、那津の胸には、やっと会えたという気持ちが湧き上がってくるのをはっきりと感じた。
小次郎の額からは汗が流れ、一瞬触れた背中は燃えるように熱かった。
那津のために、牛谷を捜して走り回っていたのかもしれない。
そう考えただけで、那津の胸中はキュンと甘く疼いた。
「小次郎……」
呟いた自分の声が、恋心を語っているような気がして恥ずかしくなる。
「那津さん、無事ですか? 何かされませんでしたか」
「だ、大丈夫だよ。本当に偶然会っただけだから」
「そうですか、よかった……」
しかし、小次郎の視線は那津を捉えることなく、真っ直ぐ牛谷に注がれている。
「ひっ」と、牛谷が恐怖で硬直した。
逃げたくても足が動かないのかもしれない。
「小夜香にいくら掴まされたんだ。僕はもっと払うから、この人から手を引け」
「お、おい」
冷ややかに言い放った小次郎に、牛谷は困惑の表情を浮かべた。
「小夜香さん? どうして彼女が……」
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