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秘密 7
小次郎は完全に小夜香を疑っている。
「とぼけても無駄だ。小夜香がお前を使って、那津さんを襲わせたんだろ」
「ち、違う! 青海くんに非はないのに、あの時は完全に俺の八つ当たりだった。だから今、それを謝罪していたところで……あの、なぜここに小夜香さんの名前が出てくるのかわからないんだが、今回のことに彼女はまったく関係ない! 信じてくれ!」
よほど小次郎が怖いと見える。牛谷はぶるぶる震えながら懸命に訴えた。
ーーまさか、小次郎のやつ牛谷に何かしたんじゃないだろうな……。
牛谷のうろたえぶりは尋常じゃない。
那津も、小夜香が牛谷に指示したとはどうしても思えなかった。
「そうだよ小次郎。俺も、小夜香さんは嘘をついてないと思う」
「那津さんは黙っていてください」
「小次郎……」
淡々と呟かれた言葉。
無表情だから、その横顔は整っているだけにひどく冷淡に見える。
那津と一緒にいるときの、いつもの小次郎じゃない。
そして、何より。
――まだ、一度も俺の顔を見てくれない。
「あんたの何を信じろって言うんだ。謝罪するなら逃げる前にするのが筋ってものだろう」
いつも真っ直ぐに、ウザいぐらいに那津を見つめてくるくせに、顔すら見てくれないなんて。
すごく嫌だ。――けれど、この状況もわかっている。
小次郎は那津のために、ずっと走り回り牛谷を捜していたのだろう。
現に今だって、那津を守るために牛谷から目を逸らさないだけだ。
だから、しかたがないっていう思いはある。
だけどやっぱり、小次郎が自分を見ないのが面白くない。
心細いし……淋しい。
たとえ那津のためだとしても、こんな風に表情を無くして張りつめているなんて、小次郎らしくない。
――こいつはいつだって、顔中笑顔でほんわかしてて、すごく優しくて。……そんなのが似合ってる。
那津は、目の前の小次郎のシャツをギュッと握りしめた。
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