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秘密 11

「牛谷に何をされたのか、忘れてしまったんですか? あんなに苦しそうで、震えていたのに」 「忘れてないよ! 忘れるもんか! さっきもあの人といる時、怖かったし――」 「……やっぱり怖かったんですね」 はっと息を吐くと、小次郎は諦めたように薄く笑った。 「でも、でもさ、牛谷さんは俺を誤解してたってちゃんと謝ってくれたよ。だから……だから俺、もうあの人を許したいんだ。もう俺の前には姿を現さないって約束してくれたし」 「そんなに簡単に許すんですか。……那津さんは優しすぎますよ」 那津よりも、小次郎の方が優しいくせに。 那津の事を大事に考えてくれるからこその言葉だとわかっているが、小次郎らしくなくて、そんな事を言わせている自分にも腹が立ってくる。 「それに、お前は小夜香さんを疑ってるみたいだけど、関係ないと思う。俺には、嘘ついてるようには見えなかったから」 「今回は小夜香が関わっていなかったとしましょう。でも……」 小次郎は続ける。 「小夜香ならやりかねないんです。これまでも、散々僕にまとわりついて、友人関係に口出ししてきた。それが原因で疎遠になった人たちは、過去に数えきれないほどいるんですから」 ――それは……さすがに驚いたけど。 「小夜香さんは、本気でお前のことが……」 「小夜香の事も庇うんですね」 「それは……」 やっぱり怒っている。 いつもの小次郎とは全然違う。 再び小次郎が、はーっと苛立たし気に息を吐いた。 「ダメだな……こんな言い方しかできない。那津さんを責めるような事を言ってすみません。頭を冷やさないと、僕、那津さんに何を言うかわかりません」 辛そうにそう呟き、黒い双眸は那津から逸らされた。 「ご自宅まで送れなくてごめんなさい。……ここで失礼します」 那津の返事を待たずに、小次郎はスタスタ歩いて行ってしまう。

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