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秘密 12
茫然とその場に突っ立っていた那津は、小次郎の後ろ姿が闇の向こうへ消えかかると、弾かれたように走り出していた。
追いついて手を伸ばし、シャツを乱暴につかむ。
「な、那津さん?」
驚いて振り向いた顔が、優しい表情に見えて、安心して胸が熱くなる。
小次郎は立ち止まると那津に向き直り、半分呆れたように言った。
「那津さん、そんな顔しないでください。それじゃ僕……那津さんを置いて行けないじゃないですか」
「行くなよ……」
いつもの小次郎の雰囲気が少し戻って、このままやり過ごしてしまおうかと一瞬ためらう。
――でも、ダメだ。今ここで、こいつに本当のことを告げないと、俺はきっと後悔する。
那津は、「聞いてくれ」と、意を決して顔を上げた。
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