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想い 3

今の那津にとっては心臓に悪いセリフをサラリと告げられ、カッと体温が上昇する。 それを誤魔化すように、小次郎に向かってパンチを出した。 もちろん、空振りで。 笑いながらそれを避けるフリをして、小次郎は部屋の奥へ那津を案内する。 「お茶を淹れますので、那津さんはソファーでくつろいでいてくださいね」 「あ、うん」 ――くそ、余裕だな……。 那津は、巨大なテレビの前に設置された、大人が五人くらいゆったり座れそうなソファーの端っこに腰を下ろした。 小次郎は、オープンキッチンの向こうへ回り込む。 せっかくいつも通りの空気になったのに、那津の心臓はドキドキしっぱなしだ。 もちろん、小次郎はそんな那津の気持ちの変化など、気付いてもいないだろうけど。 「コーヒーでいいですか。……あ、夜だから紅茶がいいでしょうか」 「いや、コーヒーでいいよ」 「わかりました。ミルクとお砂糖たっぷりですね」 「……うん」 コポコポと、コーヒーメーカーの小気味いい音の後、深いコクのある香りが部屋に漂う。 座り心地の良いソファーで、那津がぼんやりしていると、小次郎がカップ二つを手に、カウンターから出てくる。 「どうぞ、熱いので気を付けてください」 「ありがと……」 那津のすぐ隣に腰かけられ、緩和と緊張が同時にやってきた。 ーーん? スペースいくらでもあるのに、……なんで隣? そりゃここは小次郎の部屋だし、自分の部屋のどこに座ろうが、小次郎の自由だけど。 ――心臓の音が聞こえたら、ヤバい……。 「那津さん、このマグカップ可愛くないですか? 実家の猫たちの写真をそれぞれ焼き付けたんですよ」 「えっ」 手元のマグカップに、可愛らしい白い仔猫が描かれている。 イラストだと思っていたが、よく見ると写真がイラストに加工されているのだ。 先日小次郎の実家に行ったとき、那津が気に入って一番長く抱っこしていたスコティッシュフォールドのベルだった。

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