94 / 132
想い 4
今の那津にとっては心臓に悪いセリフをサラリと告げられ、カッと体温が上昇する。
それを誤魔化すように、小次郎に向かってパンチを出した。
もちろん、空振りで。
笑いながらそれを避けるフリをして、小次郎は部屋の奥へ那津を案内する。
「お茶を淹れますので、那津さんはソファーでくつろいでいてくださいね」
「あ、うん」
――くそ、余裕だな……。
那津は、巨大なテレビの前に設置された、大人が五人くらいゆったり座れそうなソファーの端っこに腰を下ろした。
小次郎は、オープンキッチンの向こうへ回り込む。
せっかくいつも通りの空気になったのに、那津の心臓はドキドキしっぱなしだ。
もちろん、小次郎はそんな那津の気持ちの変化など、気付いてもいないだろうけど。
「コーヒーでいいですか。……あ、夜だから紅茶がいいでしょうか」
「いや、コーヒーでいいよ」
「わかりました。ミルクとお砂糖たっぷりですね」
「……うん」
コポコポと、コーヒーメーカーの小気味いい音の後、深いコクのある香りが部屋に漂う。
座り心地の良いソファーで、那津がぼんやりしていると、小次郎がカップ二つを手に、カウンターから出てくる。
「どうぞ、熱いので気を付けてください」
「ありがと……」
那津のすぐ隣に腰かけられ、緩和と緊張が同時にやってきた。
ーーん? スペースいくらでもあるのに、……なんで隣?
そりゃここは小次郎の部屋だし、自分の部屋のどこに座ろうが、小次郎の自由だけど。
――心臓の音が聞こえたら、ヤバい……。
「那津さん、このマグカップ可愛くないですか? 実家の猫たちの写真をそれぞれ焼き付けたんですよ」
「えっ」
手元のマグカップに、可愛らしい白い仔猫が描かれている。
イラストだと思っていたが、よく見ると写真がイラストに加工されているのだ。
先日小次郎の実家に行ったとき、那津が気に入って一番長く抱っこしていたスコティッシュフォールドのベルだった。
ともだちにシェアしよう!