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想い 6
「今、俺に彼女がいないのは、お前も知っての通りだ。けど、お前と出逢うひと月前までは……絢華と、付き合ってた」
ひと呼吸置いて、小次郎が口を挟む。
「そうでしたか……ごく最近のことですね」
こくりと那津が頷く。
「声をかけてきたのは、向こうからで……付き合いが始まった。何でも思ったことをハッキリ言う性格だってのはわかってたけど、五回目のデートの時、『那津くんは中身が空っぽなのね、ガッカリだわ』って……振られた」
「そんな言い方……酷い」
まるで自分が言われたかのように、小次郎が顔を歪ませる。
「うん。確かに酷い言われ様だけど、でも、その通りなんだ。俺は勉強嫌いだし、高校も……うちの学校ですらよく進学できたなってレベルだし」
「あの……彼女は知ってたんですよね? 那津さんの学校については」
「はっきり学校名は言わなかった。制服で会うこともなかったし、できれば知られたくなかったし」
「知られたくなかったんですか」
「だって! ……うちの学校、ありえないくらい偏差値低いもん……だから、付き合う子はみんな他校の女の子ばっかりでさ」
「そうなんですか? ……あ」
真剣な表情で話を聞いていた小次郎が、何か閃いたように目を見開いた。
「そういえば……僕も、那津さんから学校名を教えてもらってないですよ」
「……え? マジで?」
「はい」
那津自身も忘れていたが、そういえば小次郎に自分の学校名を告げた覚えがない。
できれば知られたくないことだけど、これだけ親しくなったのに小次郎の方からも聞いてこないなんて、その事実は軽くショックだ。
「なんだよ……やっぱりお前、俺に興味なんかないんじゃん」
「それは違います!」
ぐっと勢いよく手を握られ、うろたえる。
ショックな気持ちが吹き飛びそうなくらいに。
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