97 / 132

想い 7

シャツの袖口をつかむ那津の手の上から、小次郎の手が覆いかぶさる。 そして小次郎は真剣な面持ちで、前のめりに那津を見つめた。 息がかかりそうなほどの距離で、真っ黒な双眸に食い入るように見つめられる。 心臓が顔面に移動したのかと思うほど、首から上が熱くなった。 「誤解しないでください! そんなのは悲しいです。僕が那津さんに興味がないなんて、そんなことあるわけがないですよ」 「だ、だって……」 「学校の偏差値とか学校名とか、そんな事は関係ないんです。僕にとっては何の意味もない……。那津さんにはハナさんやイチカさんのような素敵な友人がいて、学校での様子を沢山話してくれる。何より那津さんがとっても楽しそうだから、僕は嬉しいんです」 「うん……毎日楽しいけど」 「大切なのは、那津さんがどこの学校に通っているのか、ではなくて、どんな学校生活を送っているか、なんです。それが重要事項です」 「重要事項って……」 思わず、軽く噴き出した。 高校生活はもちろん楽しいけれど、今の那津にとって一番楽しいのは、小次郎と過ごす時間だったりもするのだが。 ――半分はドキドキして困るけど……。 真剣な面持ちから一転、小次郎はにっこり微笑んだ。 「そもそも、僕から聞く必要はなかったんですけどね。那津さんの学校なら、初めから知ってましたから」 「――は?……え?」 そりゃ初めて逢った時、那津は制服を着ていたわけだが、デザインはよくある紺のブレザーに白シャツだから、一見制服を見ただけではどこの学校かわからない。 「お前……知ってたのか? 俺がどんだけバカかって」 「バカは余計です。――もちろん、知ってましたよ」 フフン、と満足げな様子で小次郎は胸を張る。 二ツ橋大学なのに、超頭いいくせに、那津が底辺高の生徒だと知っていながらこの男は、あんなに熱心に頭を下げたというのか。

ともだちにシェアしよう!