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想い 8
凄く頭のいいやつって、人の成績とかあんまり気にしないものなのだろうか……。
「好きな人の学校を知らないわけないでしょう」
「……え」
あまりにもサラリと告げられ、その言葉の意味を理解できなかった。
――今、「好きな人」って言わなかったか? 「好きな人」って「師匠」って意味?
だって、小次郎は平然としている。
「好きな人」が、那津と同じ意味だとしたら、こんな風に平静でいられないだろう。
少なくとも、那津はそうだ。
「……俺に、お前の師匠でいる資格……あるのかな」
「那津さん?」
ハナの奥がツンとして、目頭が熱くなる。
「小次郎は文句なくカッコよくなったよ。まあ、元々素材がよくて、中身も凄くいいヤツだもんな。頭だってスッゲーいいから、ほぼパーフェクトって感じ。……でも俺は、お前に尊敬してもらえるようなカッコいい男じゃない。本当は、短期間でみっともなく振られるような、なさけない男なんだ」
――やばい……泣きそう。
『あなたは小次郎にふさわしくない人間』
小夜香に言われ強気で否定したくせに、その言葉は呪縛のように那津を縛っている。
「俺は、お前の傍にいても、役に立たないよ……」
那津の言葉に被せるように、小次郎が口を挟む。
「そんな寂しいこと言わないでください。僕は、師匠とか弟子とか関係なく、これからも那津さんに会いたい。……偽りのない僕の本心です」
「……ほんとに?」
嬉しくて、甘えた声が出てしまった。
はっと吐き出した自分の息が、やけに熱い。
那津は、自分が涙目になっているのも気付かずに、言葉を絞り出した。
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