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想い 9
「でも俺は、お前の邪魔になりたくないんだ。住む世界も、違うし……」
小次郎が笑う気配がした。
「住む世界って……いつの時代の話ですか。――小夜香が、何か言ったんですね」
小次郎の手が、ごく自然に那津の肩を引き寄せた。
「お前と小夜香さんは、許婚だろ」
「あいつ……そんなくだらない話を那津さんに…………それは誤解です。幼い頃に母と伯父が面白がって話していたようですが……とっくに二人とも忘れていますよ。僕にその気は一切ありません。ましてや小夜香は手のかかる姉のような存在なのに、結婚なんかとても考えられませんよ……那津さん想像してみてください。お姉さんと結婚できますか」
「無理!」
那津は即答した。
至近距離で見上げた小次郎の目が優しくて、目が離せなくなる。
――でも、この状況……いいのか? おかしくないか?
男の熱い友情の中に、こんな風に優しく肩を抱かれて見つめ合ったりすることがあるんだろうか。
「……那津さんの、正直な気持ちを聞かせてくれませんか。那津さんは、どうしたいですか」
「……俺だって、お前に会いたいよ。これからも変わらず、小次郎に会いたい」
那津の肩を抱いていた小次郎の手に力が入り、瞬(まばた)きした次の瞬間、那津の身体は小次郎の腕の中にいた。
――……うそ……。
耳元で、小次郎の熱い息を感じる。
「嬉しいです……僕だって那津さんさえ傍にいてくれたら、他は何も欲しくないんです。もちろん彼女もいらない」
「小次郎……」
痛いくらい強く抱きしめられ、びっくりして嬉しくて。
そしてずっと、こうされたかったのだと実感する。
――もしかして、俺を抱きしめるために……すぐ近くに座った?
つい、そんなことを考えた。
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