100 / 132

想い 10

「那津さん」 「な、なに?」 「このまま、僕の話を聞いてくれませんか」 「……うん」 心臓はうるさいくらいドキドキしているけれど、小次郎の腕の中はとても心地よくて、那津は身体の力を抜いてその胸に顔を埋めた。 「僕には、大好きな人がいるんです」 「えっ?!」 そしてすぐ、顔を上げた。 「僕の大好きな人は、男の僕から見てもとてもカッコよくて優しくて、そしてどんな女の子よりも可愛らしくてチャーミングな人なんです。僕のために、貴重な時間を割いてショッピングに連れて行ってくれて、ヘアスタイルから足元まで全身コーディネートしてくれました。またある日は、カッコいい男になるための秘訣を熱心に伝授してくれて、そして、まるで親友のように、僕と親しくしてくれました」 那津は、上げた顔をゆっくり下げると、小次郎の胸にぽすっと落とした。 「自分でも引くほど、強引に頼み込んで弟子にしてもらったんですけど、僕は前から彼を駅のホームや最寄り駅で見かけていて……多分、一目惚れだったんです」 「ひ、一目惚れ?!」 「――はい。相手が男性だから、自分では気づけなかったんだと思います。彼が気になってしかたがなくて、その理由はわからないけれど、いつも探していました。彼と何とか接点を持ちたかった僕は、ある日ファミレスに一人で入っていく彼に、猛アタックを仕掛けたというわけです」 ――……「仕掛けた」? ……。いや、それよりも……死にそうなほど嬉しいくせに、顔が上げられないんだけど俺……。 「……那津さん」 「モゴ……」 再び胸に顔を埋めたから、モゴモゴとしかしゃべれない。

ともだちにシェアしよう!