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ハナとイチカ 3
「引っ張るなよ! ボタンが飛ぶから!」
「ボタンくらいなによ! 取れたら彼氏に縫い付けてもらえばいいじゃない! きっと裁縫も得意に決まってるわ! ハナ、離れなさいってば!」
「やーだー」
やいのやいのと三人で押しくらまんじゅうしていると(しかも下校中の生徒が次々通り過ぎる横で)校門周辺に人だかりが出来ていた。
「……ねえ見て、出口が混雑してる」
ハナの声に、イチカと那津の動きもピタリと止まる。
「あら、何かしら。なんだかデジャヴュな感じね……」
「げ……」
那津の胸に、嫌な予感がよぎったのは言うまでもない。
小次郎と知り合って間もない頃、小夜香に校門で待ち伏せされて、楽しみのスイーツを食べ損ねた挙句、宣戦布告のような言葉を投げつけられたのだ。
忘れたくても、そうそう簡単に忘れられるものではない。
――いやいやまさか……小夜香さんってことはないだろ
那津より背が高い分、先に気付いたのはイチカだった。
「ねえ……あそこで女子に囲まれてるのって、もしかしてコジローじゃないの? 背が高くて髪が真っ黒なイケメン」
「えっ? まじ?」
「ほらハナ、本人かどうか確認してみてよ。会ったことあるんでしょ」
校門側に気を取られ、那津にしがみつく手を緩めていたハナは、あっけなくイチカに捕まり、ひょいと高い位置に掲げられた。
「ひゃあっ」
一瞬、ハナの目線はイチカよりも高くなる。
「どお? やっぱりコジロー?」
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