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ハナとイチカ 4

「こ、コジローだよ、なっちん」 「まじかよあいつ……今日は約束してないのに……」 そんな事を呟きつつも、勝手に頬が緩んでしまう。 「ありがと、ハナ」 「うん……」 ハナの制服のスカートがふわりと膨らまない様に気を遣っているのか、イチカはゆっくりハナを地面に下ろした。 那津は、スカートを押さえてもいいものかどうかとハラハラして見守っていたが、ハナ本人はスカートは押さえず、なぜか脇を押さえてふるふるしている。 ハナにしては珍しく、顔はほんのりピンク色だ。 「なっちん、早くコジローのところに行ってあげなさいよ。きっと凄く困ってるわよ。次回改めてちゃんと紹介してもらうから、よろしく言っておいて」 先日の学祭で、ハナは小次郎との初対面を果たしたのだが、イチカにはまだ会わせていなかったし、写メも見せていなかった。 イチカが小次郎を気に入ったら嫌だと思っていたからだ。 今は心配していないけれど。 「ありがとイチカ。伝えておくよ……ねえハナ、大丈夫?」 ハナは、まだ脇を押さえたまま、ふるふるしている。 もしかして、凄くくすぐったかったのだろうか。 「……平気だよ。コジローに、また会おうねって、伝えて」 「うん、わかった。必ず伝える」 頬をピンク色にしたままのハナの顔が、なぜかいつもより大人っぽく見えた。 つい最近も、この顔を見た気がするけれど、すぐに思い出せなかった。 那津は、二人に手を振って走り出す。 「……ちっちゃい子みたいな扱いしないで……」 「……そんなつもりないわよ、だって……」 会話がわずかに聞こえて振り向くと、ハナの機嫌が直ったのか、手をつなぐ二人の姿が見えた。 穏やかな表情のイチカと、ここから見てもまだ頬がピンク色のハナ。 那津は、さっきと同じ顔のハナを見たのがいつだったか、唐突に思い出す。 大学祭の帰りの電車内で、ハナから好きな人がいると打ち明けられた時だった。

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