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エピローグ1

まさかなあ、と思いつつ、けれどまたきっと、ハナと恋バナができる日はそんなに遠くない気がする。 那津は小次郎を救出するべく、女子で作られた生垣のかたまりに近づいた。 きゃあきゃあ騒ぎながら、女の子たちは口々に小次郎に話しかけている。 かたまりの中から、小次郎の肩から上がひょっこり飛び出ているから、後ろ姿がはっきり確認できる。その顔は、きっと困り果てた表情に違いない。 那津は、面白そうだからしばらくその様子を見物することにした。 「誰待ってるんですか~」 「いや……別に」 「ねえねえ、どこの学校? ライン交換してくれない?」 「スマホ持ってないので」 会話の聞こえる場所まで来て、那津は違和感に足を止めた。 「お友達ホントに来るんですか? 来ないじゃなーい。私たちと遊びに行こうよ~」 「いや、知らない人と行きませんから」 「ねえ、きっと先に帰ったのよ、行こ行こ」 「行きません」 確かに小次郎の声だし、後ろ姿を見間違うはずがないから小次郎本人だ。間違えるはずはない。 けれど、冷たい抑揚のない声は、那津の聞きなれた声とは別物だった。 小夜香に対するぶっきらぼうな感じとも違う。感情が一切ない。 「おーい、待ったか」 那津はその背中に向かって声をかける。と、くるっと振り向いた顔は、いつもの見慣れた小次郎の顔だった。 「那津さん!」 那津を見つけてみるみる笑顔に変化してほっとする。胸の中が、温かいもので覆われていくのを感じた。 「ごめんね、こいつが待ってるのは、俺なんだ」 小次郎の豹変ぶりにポカンとする女の子たちに、那津は笑顔で言った。 校門を出て、二人で駅に向かった。 ちょうど下校の時間帯だから、通学路は生徒たちであふれている。 他の女子生徒に小次郎を見せたくなくて、那津は別の道を選択し、遠回りすることにした。 さっきは、女子に囲まれている小次郎を面白がって眺めていたけれど、本心ではきっと彼女たちに嫉妬していたのかもしれないと思う。 「本当だ、この道は他の生徒さんがいませんね」 小次郎が驚いたように言った。 「穴場なんだよ、ここは。ハナたちも知らない」 二年生から那津は、ほぼ毎日のようにハナかイチカと下校していた。 ごくたまに女の子たちに誘われて大勢で帰ることもあるけれど、一人になることもある。 そんな時は、那津は決まってこの道を通って帰っていた。 那津の周辺は常に賑やかだ。 学校ではハナやイチカと一緒だし、クラスでは仲の良い女子たちとよく話すし、帰宅すればおしゃべりな母と姉の相手をする。 那津自身も明るくて賑やかなのが好きだから、それでいいのだ。毎日楽しい。 けれど……。 自分でもよくわからない感情が、時々湧き上がってきて、無性に一人になりたくなる時がある。 誰もいない静かな場所に行きたくなるのだ。

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