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エピローグ3

小次郎と一緒にいると、会話がなくても気まずくない。穏やかな気持ちになれる。 そりゃ、じっと見つめられたり、甘い言葉を囁かれたりしたら、心臓はドキドキしてとても穏やかじゃいられないけれど。 こうして、同じ時間を過ごすだけで満たされる。 他の事や先の事に気を取られることなく、今を、この瞬間を感じて、大切にしようって思える。 「那津さん……僕の話を、聞いてくれますか」 「ん? なんだよ……聞くけど」 隣の横顔を見ると、眉毛が下がっている。 俺と一緒にいるのに何でそんな顔してんだという気持ちを込めて、繋いだ手の指を動かして、手の甲を撫でた。 そしたら、ほんの少し表情が和らいだように見えた。 「僕は、少し前まで、将来に何の希望も夢も、なかったんです」 「え、そうなの?……意外だな」 「――はい。僕は昔から、その、何でもソツなくこなせてしまうところがあって、勉強もスポーツも人付き合いも……だからなのか、一つの物事に熱中する経験もなく、成長してしまいました」 なんだか、知らない他人の話を聞いている気分になってくる。 話の内容だけなら自慢話かと勘違いしそうだが、小次郎の表情と声に元気がない上に、ためらいがちに話しているから、そうは聞こえなかった。 「同級生たちが恋愛の話で盛り上がっている時も、僕の中は常に冷めていました。告白されれば受け入れて付き合いましたが……必ず相手が離れていくんです。当然ですよね、僕は彼女たちを好きにならなかったから。そんなことばかり、繰り返していました」 「そっか…………ん? なんだって? ……告白されて……付き合った……繰り返して、た……?」 「はい……」 「お、ま、え……じゃ、なんで俺に弟子入りなんか……」 衝撃の事実に那津の思考は追いつけない。 そもそも、小次郎は那津に「カッコいい男になりたい」と言って弟子入りを懇願してきたのだ。 けれど、両想いになった日に聞いた話だと、小次郎は那津に一目ぼれをしていたから近づいた、ようなことを言っていたっけ。 と言うことは……。 「――すみません……」 「はっ! 俺また、声に出してた?」 那津はバッと自分の口を手で塞いだ。 繋いでいない方の手で。 「あの……話を続けても、いいですか」 「むぐ」 那津は口を塞ぎながら、ブンブン首を縦に振った。 「僕はきっとこれから先の未来も、誰も愛さずに生きていくんだろうと思っていました。おそらく自分は、恋愛感情というものが欠落した人間なのだと、諦めていました。」 ――そんな…… 口が塞がっているから、目で感情を表した那津に、小次郎は自嘲気味に笑った。 「でも、特別絶望感もなかったんですよ。許婚の話は、伯父や母はとうに忘れていましたが、小夜香一人がいつまでも執念深く覚えていて、毎年、誕生日やバレンタインデーにはプレゼントを贈りつけてきました。姉のような存在だから嫌いじゃないし、可愛そうだから結婚してやってもいいか、なんて思っていました。それで伯父の会社を継ぐのもまあまあ面白いかなって……」 さすがに、それには動揺した。 従姉の小夜香を見下し、伯父の会社を継ぐことを軽視しているような発言に聞こえる。

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