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エピローグ6
「あの、那津さん……僕の事、嫌いになりましたか」
「はあ? なんでだよ」
「だって、僕……」
小次郎は、ギュッと自分の膝をつかんだ。
相当力を込めているのか、指先が白くなっている。
けれど俯いているから表情がわからない。そんな小次郎に向かって、那津は言ってやった。
「あのなあ、それくらいで、嫌いになんかならねーよ。気持ちって、そんな簡単に消えてなくなるもんじゃないだろ。……俺は好きだよ、お前が」
「うっ……」
呻《うめ》くような嗚咽《おえつ》が聞こえてびっくりする。
「お前……泣いてんのか」
小次郎の白い頬から、パタパタと雫が零れ落ちた。
「おい……泣くなよ」
那津はしっかり気持ちを伝えた。「嫌いになっていない、好きだ」と。
けれど、小次郎は必死に涙をこらえている様子だが、決壊したダムのごとく、涙は次々溢れ、零れ落ちる。
――嬉し涙半分、後悔半分、ってところなんだろうな……。
小次郎は優しいから、きっと那津を騙《だま》す結果になってしまったことを悔やんで、那津に対する申し訳なさで、胸が張り裂けそうなのかもしれない。
「ったく……しょうがないなあ」
「ご、ごめんな、さい……止まら、なくて」
小次郎自身も、止めたいのにどうすることもできないのかもしれない。
けれど、キラキラパタパタと、雫は勢いを増すばかりだった。
那津の胸も、さっきから痛くて仕方がない。好きな相手が泣いてるだけで、こっちも泣きたい気持ちになってくる。
ただ涙が止まるのを見ているだけなんて、耐えられない。
那津はベンチの上に膝立ちすると、小次郎にぐっと近づいた。
俯いた小次郎の顔を両手でつかみ、強引に上を向かせる。
驚いたように見開いた小次郎の目は真っ赤で、黒い双眸が涙の海に溺れそうになっている。
「な、那津さ……ぅ……」
小次郎の口から零れる言葉と嗚咽ごと、那津は自分の唇で塞ぎ、飲み込んだ。
「んぅ……ん」
くぐもった声が小次郎の喉から漏れる。
その声に煽られたが、あくまでも優しく、あやすように口づけた。
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