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エピローグ7

ひと気が少ないとはいえ、この場所は公共の場、公園だ。 誰も来るなよと念を送りつつ、那津は小次郎の後頭部に手を回し、角度を変えながら、キスを続けた。 「んっ……な、つさん……」 小次郎が泣き止むようあやすつもりが、なんだか気持ちよくなって夢中になるうち、いつの間にかイニシアティブは小次郎に取られていた。 ぐっと腰を抱き寄せられ、深い口づけになる。 熱い舌が我が物顔で那津の口腔を暴れまわり、その強引さといったら、たった今めそめそ泣いていた人物とは思えぬほどだ。 那津が、ぷはっと唇を離したときには、すっかり息が上がっていた。 「お、お前な……」 「ごめんなさい、つい、嬉しくて」 間近で那津を見つめる小次郎の瞳はまだ赤いけれど、涙は止まったようだ。それに安堵しつつ、文句を言うのも忘れない。 「あのなあ、俺はお前がなかなか泣き止まないから、それを止めてやるつもりで……」 「僕は本当に那津さんが大好きです。好きで好きで……本当に、他には何もいらない」 「こじろ…」 名を呼ぶ途中で、ぎゅっと抱きしめられた。 相変わらず小次郎はベンチの上に正座したまま。那津は膝立ちしているから、胸の下に小次郎の頭がすっぽり収まっている。 那津も、その真っ黒な髪に指を滑らせ、優しく抱きしめ返した。 「俺も……好き」 「那津さん」 言葉にするたび、実感が湧く。 自分は今、恋をしている。この先もずっと、大切に守っていきたい恋だ。 ――こいつと、離れたくない。 二人を見ているのは、樹々の緑だけ。 時々思い出したように、電車の発車を知らせるメロディと、公園のグラウンドから子供の声が聞こえてくる。 陽が落ち始め淋しい雰囲気になりつつあるのに、この場所だけは温かかった。 ――小次郎と一緒なら、ずっとあったかいんだろうな。

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