130 / 132

エピローグ9

那津は涙の滲《にじ》んだ瞼《まぶた》をゴシゴシこすり、拳《こぶし》を小次郎の胸に軽く当てた。 「そんなの、別に大丈夫だろ」 「だ、だって……ペアリングですよ? その……男性同士で行ったら色々な意味で注目を浴びてしまうだろうし、いやあの……僕は那津さんと一緒に行けたらもちろん嬉しいですけど」 「硬く考えるなよ、そんなの適当に理由つければいいじゃん。例えば、お前の彼女がふくよかで、俺の指とサイズが同じくらいだから来てやった――とかなんとか、店員のお姉さんに俺がテキトーに言ってやるし」 「……なるほど」 妙に納得した表情の小次郎に、那津は胸の中がくすぐったくてしかたがなかった。 幸せずぎて怖いとまではいかないけれど、顔がにやけるというか、頬が上がりっぱなしでどうしようもない。 那津は、右手にはめてもらったリングを指で撫でようとして、自分がもう一個のリングを握りしめているのを思い出した。 「おい、こっちはおまえの分だよな」 「あ、そうでした」 「忘れてたのかよ」 那津は、ははっと呆れた声を出す。 「すみません、那津さんに無事に渡すことができたので、胸がいっぱいになってしまって……」 握っていた掌《てのひら》を開くと、同じくシンプルなデザインのプラチナリング。 那津は、「手え出せよ」と、少々照れくさく思いながら小次郎の目前にリングを掲げた。 「那津さん……」  小次郎は、おずおずと右手を那津に差し出す。 「違う、そっちじゃない」 「えっ」 「こっちだろ」 那津は、強引に小次郎の左手を取ると、薬指にリングを……。 「あ、あの」 「んー、人に指輪はめんのって結構ムズいんだな」 やや乱暴になってしまったが、リングは小次郎の白くて長い指に綺麗におさまった。

ともだちにシェアしよう!