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エピローグ10
そして、先ほどつけてもらった自分の右手のリングを外し、パッと左手にはめ直した。
「あっ、それは……ああ……」
自分の手で那津の左手につけ直したかったのかもしれない。
驚いた小次郎の声は、語尾が残念そうに萎《しぼ》む。
「綺麗だな」
おそらく高価な物なのだろう。那津がつけているピアス類はシルバーがほとんどだから、輝きが違うのはすぐにわかった。
シンプルだけど、いかにもエンゲージリンクといったデザインとは異なり、丸みもない。すっと平行に入った一本のラインが男性的でスタイリッシュで、二人の指にとても似合っている。
「気に入っていただけましたか?」
「うん、シンプルでいいな。すっげえ気に入った!」
那津は立ち上がり、ぱっとベンチから飛び降りた。
葉の間からのぞく夕日にかざすと、光に反射してキラキラと輝く。
小次郎も立ち上がり、那津の隣に並んだ。
「那津さん……」
「ん?」
顔を上げて隣の男を見上げると、澄んだ真っ黒な双眸と目が合った。
「いいんですか、左手で。……そんな大切な場所に」
――なんで、そんなに自信なさげなんだよ。
「大切な場所だから、だろ」
小次郎が息を呑む。その顔はみるみる泣きそうに歪《ゆが》んだ。
「おい……そんな顔すんな。嬉しいなら泣かないで笑ってくれよ」
「……はい……すみません、なんか僕、最近涙腺が緩くて」
泣き笑いの表情を見せる小次郎に「じいちゃんかよ!」とツッコむ。
彼を見て、那津の中に母性に似た愛しさが込み上げる。ーー自分はティーンエイジャーの男子高校生だけれど。
「別に、俺の前でなら泣いたっていいんだけど……でもやっぱ、おまえには笑ってて欲しいからさ」
右隣に立つ小次郎の左手を、ぎゅっと握る。
「……はい」
その指先にはめられた指輪に、自分の左手のリングをカチリと合わせた。
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