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第5話

眞仁side 「今日は何作ってるのだろうか。」 ここ3週間ほど早く帰って陽茜の作った夕飯を陽茜と一緒に食べている。それまで食べていたプロの作った料理に格段劣るはずの陽茜の料理が、1日の励みになるほどに美味しく感じるのは何故だろうか。 「やはり愛しい人が作ったものだからだろうな。」 早く終わらせて帰ろう。俺は中断していた仕事を再開した。 俺はこの後ものすごい後悔をすることになる。もっと寄り添えばよかった、言葉にすれば良かった。そう嘆いてももう遅いことがあるのだ。 「ただいま…?」 ここ最近毎日返ってきた「おかえりなさい」が今日は返ってこない。些細な事だが変に胸騒ぎがする。 「陽茜?…ウワッ!!」 リビングは噎せ返るような甘い香りで満ちていた。 「発情期かっ!!」 しまった、もっと気にかけておくべきだった。Ωの発情期は3ヶ月に1週間ほど、陽茜の発情期は前回の日付を考えて1週間以内には来るだろうと分かっていたのに。 「おい、陽茜。陽茜?」 真っ暗なリビング、返ってこない言葉。全てに心がざわつく。そのざわつきの理由は電気をつければすぐに分かった。 「陽茜?陽茜ッッ!!」 テーブルに散らばる抑制剤と睡眠薬の空のシート、ソファに横たわり微動だにしない陽茜。 「これ全部飲んだのか?しかも、外国製の抑制剤じゃないか!」 「おい、陽茜ッ陽茜ッ!!」 どうすればいい、どうしたらこの消えかけた命は息を吹き返す。明らかに低い陽茜の体温がその命の儚さを否応なく教えてくれる。 「死なないでくれ。いや死なせはしない。」 やっと覚悟が決まったんだ。お前と家族になる覚悟が。今まで渡してなかった指輪も作った。次の発情期が来たらゴム無しでセックスしてくれというつもりだった。何より 「今日こそは美味しいって、愛してるっていうつもりだったんだ…。」 自然と涙が零れてくるが今は泣いてる暇なんてない。まずするべきは救急車を呼ぶこと。呼んだら、陽茜の体温がこれ以上下がらないように毛布かなんかで温める。 落ち着け、やるべき事はたくさんある。焦れば焦るだけ陽茜に負担がかかるんだ。 「絶対に助けるからな。」 深い眠りに落ちている陽茜にそう声をかけ、電話をするために俺は立ち上がった。

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