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第8話
このままここにいたらきっと死ねる。それはそれでいいのだけど、何かが胸に引っかかる。なんだろう、このもやもやは。
「まぁいいか、死んだら関係ないし。」
もう一度目を閉じてしまおうとした瞬間、声が響いた。
『戻ってこい』
凛と響いた声は今までに聞いたことがないくらい必死だった。
「戻ったら何になるの?もう苦しいのは嫌なんだ。」
『今まで逃げてて悪かった。ちゃんと向き合うから。』
逃げてて?浮気してての間違いじゃないのか?
『今度は二度と失望させない』
『だからもう一度愛するチャンスを、大切にするチャンスを下さい』
もう裏切られるのは嫌だ、このまま楽になりたいと思うのに。この声を信じてみたいと思う自分がいる。愛されたい、大切にされたいと思う自分がいる。
「ほんとうに…?もう二度と裏切られたりしない?」
『大切にするから、言葉にするから、だから』
「信じてみたいんだ」
『戻ってこい、陽茜』
もう一度、もう一度だけこの声を信じてみよう。俺もちゃんと言葉にしなきゃいけない。寂しかったら寂しいと一緒にいて欲しいと伝えよう。
もう一度だけ頑張ってみよう。
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