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第13話

自宅とは真逆、駅の方へ向かった眞仁はどうも誰かとと待ち合わせをしているらしい。しきりに腕時計を確認しながら、駅の改札口を見ている。 「誰と待ち合わせしてるんだろう。俺の知ってる人?」 不安はどんどん大きくなっていく。 しばらく様子を見ていると、10分ほどたった頃眞仁が動いた。改札口から一斉に吐き出された人混みのなかの誰かに合図するように手を振ったのだ。 「!」 その眞仁に駆け寄った人を見て一瞬呼吸が止まった。眞仁と同い年くらいの美人、スタイルも良く2人はお似合いに見えた。ああ負けた。(つがい)であるはずの俺がそう悟ってしまう程に、並んだ2人はお似合いのカップルだった。 その後2人が駅前にあるオシャレな外観のホテルに入っていったのを見届けた俺は茫然自失したまま自宅に戻った。 帰る道すがら考えるのはさっきの後ろ姿。もう俺は要らないのだろうか。俺と眞仁は言わば行きずりでつがった様なものだ。眞仁に本命がいたとしてもおかしくはない。それをここまで面倒見てくれたのだから感謝こそしても恨んでは行けない。 少し膨らんできたお腹をそっと手で抱きしめる。この子と2人で生きていかなきゃ行けない。高卒でバイト経験もなくしかもΩ(オメガ)の俺が出来る仕事なんて限られているけど。でも、眞仁がくれた命だ。好きな人の子供だ。大切に育てよう。 家に帰ったら荷物をまとめて出ていこう。親とは絶縁状態だから頼れない。頼れるのは祖父母くらいか、とりあえずそこに縋ろう。そんなことを考えながら歩いて行くと見慣れたマンションの玄関ポーチが見えた。 ブーブー その時ポケットの中のスマホが揺れた。メールだ。差出人は眞仁 『すまない今日も遅くなりそうだ。先に寝ていてくれ。』 さっきの今でこの内容のメール。自分の中の何かが音を立てて崩壊した。 次第に白けていく視界と対照に黒に染まっていく意識。こんな所で倒れたらお腹の子供に響くとは思ったけど俺は薄れゆく意識を引き止める事ができなかった。

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