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第14話
眞仁side
「すまん、電話だ。席を外す。」
学生時代の友人何人かと久しぶりに会い、食事をしているとスマホが鳴った。「奥さんからの帰ってこいコールだろ」と茶化されながら表にでる。見覚えのない番号からの着信に首を傾げながら出てみると思いがけない言葉が返ってきた。
「もしもし…」
『もしもし、一条眞仁 さんで間違えないでしょうか。』
「はい、そうですが。」
『○○病院です。貴方の奥さん、一条陽茜 さんが今救急で運ばれて来ました。至急本病院まで来て頂けますか。』
「陽茜が運ばれた…。」
あまりの事態に思考が停止する。頭の中を駆け回る「なんで?どうして?」という何の役にも立たない言葉。
「おい眞仁?」
我に返ったのはなかなか帰ってこない俺の様子を見に来た旧友新藤薫 に声をかけられて。そうしてようやく「急いで病院に行かなくては」と思考が追いついてきた。
「すまない薫、途中だが抜ける。」
「はぁ?なんで?お前が幹事だろ。」
「…身重の妻が倒れて病院に運ばれた。行かなくていけない。」
「え!?それ先に言えよ!ああもう分かったから、ほら、行けよ。」
「本当にすまない。幹事は…」
「俺が継ぐから、心配ご無用。」
頼もしい薫の言葉を受けて俺は病院に車を走らせた。
1人になるとどうしても思考が悪い方へ悪い方へ流れていく。陽茜は1度は死を選んだ人間だ、あの時の青白い生気のない陽茜の顔が脳裏にチラつく。
「陽茜…何があった?」
安定期に入ったんじゃなかったのか?
ついこの前まで悪阻に苦しめられていた陽茜を思い出す。悪阻の重い質らしい陽茜は食べ物の匂いすら受け付けず1日中嘔吐を繰り返していた。可哀想なくらい痩せこけた陽茜が少し嬉しそうに「安定期に入った。」と報告して来たのはまだ記憶に新しい。
知り合いの Ω に聞いたが安定期に入ってしまえばセックスですらできる、と言うより適度に運動した方がいいらしい。安定期に入れば倒れることも個人はあるがほとんどないという。
それが倒れたのだ。何かあったのだろうがその何かが俺には分からない。配慮の足らなかった己が酷く悔しい。
「何か足りない事があったなら言ってくれ。話をしよう。だからどうか。」
無事でいろ。車を走らせながら切に願った。
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