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第16話
俺の言葉を予想していなかったのか眞仁は初めて見るくらい驚いていた。それを見て確信する。
「何歳も年下でしかも行きずりで番 になった俺なんかよりあの美人の方が比べるのもおこがましいくらい良いもんね。」
決壊した自制心のまま心に浮かんだ言葉をそのまま吐き散らす。
「俺はなんにも出来ない役立たずで、お荷物かもしれないけど好きな人に迷惑を掛けたくない。好きな人の幸せを邪魔したくない。だからもう戻っていいよ、この点滴終われば俺も帰れるし。帰ったら荷物まとめて出ていくから安心してね。俺が出ていったあと、あの部屋であの人と2人で暮せば良い…」
「ちょっと待て。」
俺が好き放題言っているのを眞仁が遮る。
「何個確認してもいいか?まずお前は俺の浮気だか不倫だかを疑った?」
「疑うも何も状況が…」
「聞け。それで今日俺をつけた訳か。一体どこから?」
「会社からだ。そしたらお前うちと反対方向に向かってくし最近変に帰り遅いし、駅で美人と待ち合わせてるし。これのどこが浮気じゃないって?」
「…俺が悪かった。少し弁明させてくれないか。」
それを聞いた眞仁はしおらしく項垂れて1つ1つここ最近の自身の行動を説明し始めた。
「まず遅くなっていたのは知り合いのα とΩ の番を訪ねて回っていたからだ。」
「え?」
「お前にはかっこつけていたが俺だって不安はある。だから経験者や仲のいい番に上手くやっていくコツ、妊娠中の注意とかを聞いておきたかったんだ。」
そう言ってまだ疑っている俺に眞仁はほらとメールを見せた。そこには何人ものαと連絡を取っていた形跡が残っている。
「流石にΩの1人しかいないが、αの知り合いならいくらでもいる。その中に番がいるものもいれば番ではないけど付き合っているΩがいる奴は多い。そういう奴らに話を聞いておきたかったんだ。それに今日のことも…」
浮気なんてしてなかった。俺の勘違い、それでこんなに迷惑をかけて。きっと今日のことだって同級生かなんかなんだろう。落ち着いて考えてみれば友達の近さはあっても付き合っている近さはなかった。
「…ごめんなさい。」
「陽茜?」
「ごめんなさい、俺のためにしてくれてる事だったのに。勝手に勘違いして、その挙句こんな迷惑をかけて…。」
「陽茜それは違う。何回も言っているだろ?迷惑なんかじゃないって。俺はお前が大切だからお前の力になれるなら何だってしてやりたい。俺のために苦しい思いをしているのに妊娠を変わってやることはどうやっても無理なんだからそれ以外の苦痛を全て取り除いてやりたいと思うのは当たり前だ。」
「でも、でも俺なんかでいいの?家族にすら要らないって言われた出来損ないだよ?」
「陽茜ー、お前のその自尊心のなさはどうにかならないのか?俺は、お前が、いい。お前じゃなきゃダメだ。わかって?」
力強いその言葉に涙腺が崩壊し涙が溢れる。こんなに愛されているのに俺は何を不安になっているのだろう。
「泣くなよ。きちんと説明しなかった俺が悪かった。こんなことになるなら変にかっこつけるんじゃなかったな。でも、陽茜。お前も不満ならぶつけろ、1人で抱え込まれちゃ支えたくても支えられないだろ?」
「うん、うん、ごめんなさい。」
「謝んなくていいから。これからはきちんと2人で解決していこうな?」
「…はい。」
「よし。」
俺が涙を、拭いながらコクコクと何回も頷くと眞仁は微笑んで頭を撫でてくれた。
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