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第31話

眞仁(まひと)side ここ最近陽茜(あきね)の様子がおかしい。どこかぼーっとしていたり、重いため息をついていたり。俺が自分の事で手一杯だったからか陽茜が何故その状態なのか全く検討がつかないのだ。 「お前の母親はどうしたんだ?」 腕に抱えている愛息子陽仁(あきと)に尋ねてみるが相手は生後6ヶ月、答えが返ってくるわけない。 そもそもこんなことになっているのは俺の実家のせいだ。俺の実家は所謂1族経営の大病院で院長が父、副院長が叔父と言ったところだ。跡を継ぐのは兄と決まっており、元々俺が両親と折り合いが悪かったのも相まってつい最近まで絶縁状態。 それが1ヶ月ほど前、いきなり電話がかかってきたのだ。久しぶりに会話をした母親は相変わらずで、しかも今回は予想の斜め上をつく御用だった。簡潔にまとめると『病院のために政略結婚しろ』しかもどこからか陽茜と陽仁の事も調査済みで。 それに今回は相手が悪い。もし陽茜も陽仁も居なかったとしても絶対にごめんな相手だったのだ。 西園寺百合香(さいおんじゆりか)、俺の一つ下で、β(ベータ)。かの有名な西園寺グループの第2社長令嬢、つまりは次女だ。 幼い頃から顔見知りではあったが正直いって大嫌いの部類に入る。姉がΩ(オメガ)でチヤホヤされているのを見て育ったせいかΩを毛嫌いしており、彩人(あやと)にも散々罵詈雑言を浴びせていた。 βだから俺の子供は身篭れないだろと母親の意見を突っぱねると電話の向こうの母親はそれでも母かというような最低の案を提示してきた。 『 陽茜と離婚し陽仁の親権を奪え。そして西園寺百合香と結婚し陽仁を2人の息子として育てればいい。』 思わず「俺はこんな人間から産まれたのか」とこれが自分の母親であることを絶望した。 こともあろうか陽茜から陽仁を取り上げろと言っているのだ。そんなこと出来るはずがないしそもそも陽茜以外とこの先の人生を過ごすつもりはない。 その時はそう突っぱね電話を切ったが後から思えば少しでも母親の機嫌をとっていた方がよかったかもしれない。 母親は自分のためならどんな手でも使う人だ。今回のことだってどうせ金が入るいい機会だぐらいにしか思っていないのだろう。母親は昔から浪費癖があるらしく金遣いが荒かった。 陽茜と陽仁に危険が及んでは元も子もないのだからあそこで突っぱねるのは良くない。さてどうやってあのクソみたいな母親を御するか、やはり兄に頼もうか。いくら考えても最善と思える策は全く思いつかなかった。

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