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第37話

眞仁(まひと)side 母親からの電話攻撃が激化してきたある木曜日、俺は父と兄の務める病院へと足を運んだ。もちろん陽茜(あきね)は黙って。いい加減決着を付けようと会社を休んでここに来たが、朝家を出る時には普通に会社に行くふりをした。罪悪感がわかないこともないが今回ばかりは仕方がない。 「久しぶりだね、眞仁。」 病院の院長室で俺を出迎えた兄と父。母親とは色々いざこざがあって疎遠になっていたがこの2人との関係は温厚なまま。母親を煙たがって家に帰ってこない俺に何度か「自分達が仲を取り持つから帰ってきてくれないか」と提案してくれていた。 「父さん、兄さん、全然帰ってこなくてごめん。それと、今日時間を開けてくれてありがとう。」 「礼なんかいい。家族だろう?」 そう言って快活に笑う父は今年で75になるはずだ。 「で?母さんのことで相談があるんだろう?」 本題はその事だがその前にひとつ言わなければいけないことがある。 「そうなんだ。しかし、その前に。その、突然で悪いんだが俺は1年半くらい前からあるΩ(オメガ)の少年と(つがい)関係で今は入籍して一緒に家族として暮らしているんだ。」 「「はぁ!?」」 「本当に、黙っていて済まなかった。」 この2人に反対されたら味方なしだなと思いつつ反応を伺う。 「まぁいいんじゃないか?」 「へ?」 予想しなかった反応に思わず変な声が出てしまった。 「なぁ優仁(ゆうと)、後はお前が継いでくれるのだし眞仁はもう自立している。反対する理由なんてありはしないよ。」 「ええ、父さん。昔から眞仁が医者になるのは全く想像できませんでしたからね。予想通りさっさと1人で会社建てて出ていってしまいましたし。」 お前をもう自立した立派な大人だ。お前が選んだ相手なのだから確かなのだろうと陽茜とのこと快く受け入れてくれた父と兄に胸がジーンとした。 「ひとつ条件を上げるとしたら、今度きちんと連れてきなさい。お前の連れということは私の子供という事だろう?子供の顔を見たことがないなんて耐えられん。」 「そうですよ眞仁。僕も自分の弟の顔が見たい。今度ぜひ会わせて下さい。」 「その、重ね重ね申し訳ないだが子供も…。」 「ほぉ孫が1人増えるのか!こんなに嬉しいことは無いぞ。男か?女か?」 「男だ。名前は陽茜(あきと)。」 「いい名前ですね。僕の息子冬生(ふゆき)と仲良くなれるでしょうか。」 今度陽茜と陽仁を連れて帰ってくると固く約束させられる。母親があの態度だから父と兄も反対なのかと覚悟していたが予想外に歓迎されて驚いた。思えば俺のやりたいことを理不尽に反対したことのない人達だ、今回も俺の事を信頼しての言葉なんだろう。そう思うと嬉しかった。

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