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第39話
家につき、そっと玄関の扉を開ける。途端目に入ってきたのは見覚えのない2足の女物の靴。やはり嫌な予感は当たっていたらしい。
「母さんと百合香が来てる。」
「やっぱり…」
「リビングにいるだろうからとりあえず上がってくれ。」
3人して足音を押し殺しそっとリビングの扉に近づく。耳をそばだてると陽茜の声が聞こえてきた。しかも珍しく声を荒立てていて少し驚いた。
『…付き合っていたなんて有り得ないでしょう。眞仁は多少不器用でいい加減な所もあるけれど人に不誠実なことは絶対にしません。』
百合香がどうせ私と付き合っていたのにとか言ったのだろうが陽茜はそれをきっぱりと否定した。その言葉は陽茜が俺に全幅の信頼を置いてくれている事を明確に教えてくれる。
『どうしても眞仁と陽仁をこちらに渡して欲しいというのなら裁判で争いましょう。俺にはその覚悟がありますし貴方がたに受けてきた嫌がらせの数々は全て記録しています。立場と権力にものを言わせて言うこと聞かそうなんて思ってないですよね?イザとなったら裁判で争う位の覚悟で俺達を引き離そうとしているんですよね?』
ああ強くなったな。これが母になるということなのか。いつも何かと不安がって泣いていた少年の面影はなりを潜め、俺達のために戦ってくれている。1人で抱え込むには辛かったであろう嫌がらせの証拠まで溜め込んで。今もたった1人ふたり相手に1歩も引けを取らない。
でも、陽茜。俺には分かってしまう。お前のそれが必死の虚勢だと。俺には子犬が尻尾を股の間に丸め込みながら必死に威嚇しているようにしか見えない。俺が守ってやるからと今すぐ抱きしめてやりたい。
『眞仁と俺は…』
陽茜の声がトーンダウンした。
『…本当に行き釣りの言葉がぴったりな始まりなんです。発情期だった俺とヒートの近かった眞仁、偶然出会った。上手くいないこともすれ違うこともあった。俺が心配性でネガティブ思考だから勝手に1人勘違いして突っ走って、結局眞仁に迷惑をかける。何回も何回も繰り返してきたんです。』
そうだ、お前はいつも勘違いしてを確認しないまま突っ走って俺をひやひやさせて来たな。最初が最初で俺も負い目を感じて逃げてた部分もあり陽茜が全て悪いとは言えないし言う気もない。それでもあれだけ心臓が止まるかと思うことは恐らく最初で最後だろう。と言うより最後にする。
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