5 / 8

第5話

尾形はそれから時間を掛けてバックで二度、正常位で二度、杉元を抱いた。 杉元は泣きながら喘ぎ続け、いつ終わるとも知れない快感に、ピクピクと身体を震わせていた。 尾形は杉元の全てを味わい尽くし、杉元の『弱い場所』も全て頭に入れた。 最後に正常位で向き合っている時、尾形はやっと杉元のペニスの根元を縛っていたネクタイを解いてやった。 尾形は腰をグラインドさせ、杉元が感じる場所目掛けてゴムを着けていない雄を穿ち、杉元のパンパンに腫れて赤くなっている雄を丁寧に扱いてやる。 その頃の杉元は、綺麗な顔は真っ赤で涙にまみれてぐしゃぐしゃで、無意識に唇を噛んでいたせいで唇がほんの少し切れていた。 それに尾形に身体を触られると、例えそれがさっと撫でられただけでも、快感が走る。 だがそれは杉元にとって反射神経のようなもので、杉元は今にも意識が飛びそうで、何も考えられず、頭の中は真っ白だった。 尾形に自身を解放されても、苦痛が一つ消えたと感じただけで、生理的な涙が瞳から流れただけだった。 尾形は杉元を揺さぶり、「出すぞ」と言うと、杉元の雄を激しく扱く。 そして尾形が杉元の中に白濁をぶちまけると、杉元も身体を震わせイった。 けれど杉元の雄からはそれまで我慢させられた分の白濁が吹き零れる事も無く、白濁はタラタラとゆっくり杉元の雄を濡らしていった。 尾形が髪をかき上げせせら笑う。 「杉元ォ、お前マジでメスになっちまったのか?」 そう言いながら尾形は自分の白濁に濡れた自身を杉元の蕾から引き抜きいた。 そして杉元の身体に馬乗りになると、杉元の血の滲んだ唇に指先で触れると言った。 「約束を守ったな。 ご希望通りこれでお前は俺のセフレだ。 だが良いか。 連絡は俺からする。 お前からはしてくんな。 都合が合えばこうしてセックスする。 それがセフレってモンだ。 分かったか?」 杉元が小さく頷く。 そして言った。 「…気持ち良かった…?」 「あ?」 「俺として…気持ち良かった?」 予想外の問いに、尾形が「ああ、まあ…」と珍しく歯切れ悪く答える。 すると杉元がぐちゃぐちゃの顔で嬉しそうに笑った。 「良かったあ…」と言って。 その瞬間、尾形の胸がズキッと痛んだ。 後悔でも悲しみでも無い、尾形の知らない痛み。 尾形はまじまじと杉元の顔を見てしまった。 杉元が不思議そうに尾形を見上げている。 その視線から逃れる様に尾形は杉元の身体から下りると、「掻き出すやり方教えてやるから来い」と言って杉元を抱き起こし、バスルームに向かった。 杉元はフラフラで立って居られなかったので、尾形は杉元を四つん這いにさせた。 そして杉元の蕾から精液を掻き出してやった。 ローションと混ざった白濁がトロリと杉元の蕾から垂れて出でくる光景は、何とも言えずエロい眺めだ。 尾形はボディソープとシャワーを使って掻き出しながら、「俺は基本ゴムを使うが、気分によるから、生でヤられたら絶対に掻き出せよ。腹を下す」と言った。 杉元が小さく「…分かった…」と答える。 その声は眠そうだ。 尾形は此処で眠られると面倒だと思い、「杉元、先に身体洗って出ろ」と言いながら杉元の肩を掴む。 杉元はまた「…分かった…」と小さく答えると、ノロノロと起き上がった。 杉元はかったるそうにボディソープを手の平に広げると、身体だけをざっと洗ってバスルームを出て行った。 その15分後。 尾形がバスルームを出ると杉元は居なかった。 その代わり、ベッドのサイドテーブルに、一万円札二枚と『食事代とホテル代と備品代。足りなかったら次回。俺は始発で帰る。』という味も素っ気も無いメモがスタンドに挟まれていた。 尾形がサイドテーブルに仕事用のバッグを置いたので、ここなら見逃さないと思ったのだろう。 尾形は良くあの身体で帰れたなと思うと同時に、杉元の方が『セフレであること』を強く主張しているようで可笑しな気分だった。 「良かったあ…」と言ってぐちゃぐちゃの顔で嬉しそうに笑った杉元が頭を過る。 尾形の胸をまたも見知らぬ痛みがズキッと襲った。 そうして尾形と杉元の『関係』が始まった。 尾形は初めて杉元を抱いた翌週の月曜日の昼休みに、『明日、空いてるか?』とラインでメッセージを送った。 すると直ぐに『空いてる』と返信が着た。 尾形が『何か食いたいもんあるか?』と返すと、杉元から『俺、学費稼がなくちゃなんねーからバイト掛け持ちしてんの。だからメシとか要らない。時間が勿体ない。』と着て尾形は面食らった。 尾形が食事に誘っているのだから、杉元に支払わせるつもりは無い。 そしてそれが分からない程、杉元は馬鹿じゃない。 だが、と尾形は考え直す。 ホテルに置かれていた二万円が意味するもの。 杉元は徹底した割り勘主義だということだ。 尾形は苛立った気分になったが、杉元は尾形にとって所詮『都合の良いセフレ』。 食事も要らない、徹底した割り勘主義だというなら、それこそ最高に『都合の良いセフレ』だ。 尾形が『それじゃ新宿の東口に19時』と返す。 杉元からは『分かった』と一言だけ。 尾形は苛立ちが収まらない自分に苛立っていた。 杉元は本人はそれが自然なのだろうが、セックスの時以外は尾形に興味が全然無いという態度だ。 全くの無関心。 杉元が尾形に感情を見せたのは、二度目に会った時、「お前、跡付け過ぎ。誤魔化すの大変だから、付けるなら見えないところに付けろよ」と言った時だけだ。 尾形はその夜、杉元の全身にキスマークだけで無く、噛み跡も付けてやったが。 それに杉元はスマホでアラームを設定していて、終電で必ず帰る。 駅まで一緒に行くかと尾形が言っても、尾形の隙きをついて先にホテルを出て行くか、ホテルの前で「じゃあな」と行って走り去る。 そして部屋を出る前にホテル代をキッチリ半分寄越してくる。 ローションやゴムなどの『必需品』も、交互に用意してくる。 尾形はかわいくねーやつと毎回思うが、セックスの相性は最高に良い。 それに杉元はセックスとなると尾形に絶対逆らわない。 それだけでも尾形は楽しめるが、尾形が杉元を一番気に入った点は、杉元が男同士のセックスをまるで知らず、乾いたスポンジが水を吸い込む様に尾形が教えることを吸収していくことだ。 尾形の『教え』を杉元は何も疑わず『学習』する。 そして尾形がやれと言えば、学習したことを『実行』する。 尾形に無関心でセフレ以上の気持ちを全く持っていない杉元を、自分の思い通りのセックスに染めていくのは、尾形に征服感と共に他のセフレ達とは比べ物にならない快感を得させた。 だが身体を重ね続ければ、お互い相手のプライベートに無関心と言えども嫌でも分かってくる事はある。 まず杉元は見た目同様、物凄く運動神経が良い。 「今日の練習キツかった」と自然とぼやいたりしている事から何かしらスポーツをやっているのだろう。 本気を出せば尾形など簡単に殴り飛ばせるのは確かだ。 それと尾形が二度目の飲みで思った通りの乙女思考の持ち主だ。 そして思考だけでは無く、かわいい物が好きだ。 事後のシャワーの後、杉元が余りに浮かない顔をしているので、尾形はセックスに不満でもあったのかと思い、「何かあったか?」と杉元に訊くと、返って来た答えは「クレーンゲームでしか取れないクマキャラのぬいぐるみが欲しいけど、不器用だから取れない」だった。 これには尾形も飲んでいたミネラルウォーターを吹き出してしまった。 杉元は「汚えなっ」と言ってしかめっ面をしたが、尾形がクックッと笑いながら「かわいいな、おい」と言うと杉元はボンッと赤くなって「うるせぇ…」と小声で唇を尖らせた。 そして次に会った時、ホテルで尾形が「やるよ」と紙袋を杉元の目の前に突き出すと、杉元は嫌そうに「お前からは何も貰わねぇよ」と言ったが、尾形が紙袋からクマのぬいぐるみを取り出すと杉元の表情は一変した。 瞳をキラキラと輝かせ、頬を赤く染め、「…クレーンゲーム限定のコグマちゃんだ…どうしたの?」と尾形に向かって初めて素で心底嬉しそうに笑顔を見せたのだ。 杉元のキラキラした笑顔に、尾形も思わず笑顔になってしまいそうになり、尾形はサッと横を向いてボソボソと言った。 「不器用な誰かさんは一生掛かっても取れねぇだろうと思ってな。 いいから受け取れ」 「…でも…これいくら掛かったんだよ?」 「あ?500円」 「嘘!? マジ!? 一発で取ったのかよ! 尾形、天才じゃん! もしかしてゲーセンとか良く行くの!?」 尾形は凄え食い付きだなと思うと同時に杉元の様子が見たくなり、チラリと横目で杉元に目をやった。 そこにはニコニコと笑う杉元がいて、尾形の胸にまた見知らぬ痛みが走った。 それでも尾形は何とか冷静な態度を崩さず答えた。 「行かねーよ。 俺がゲーセン通いする様に見えるか?」 「でもコグマちゃんデカいし、取り辛いって評判なんだぜ?」 「ハイハイ、分かったからさっさと受け取れ」 尾形がクマのぬいぐるみを紙袋に突っ込み、ベッドに放り投げると、杉元が慌てて紙袋を掴む。 そして「サンキュ!尾形」と弾んだ声を出した。 杉元は大切そうに紙袋を胸に抱いている。 尾形が杉元に駆け寄る。 尾形は紙袋を抱いている杉元ごと抱き締めると、杉元のおでこに触れるだけのキスをした。 杉元がキョトンとして「何してんだよ?」と言う。 尾形は「別に良いだろ。500円分好きにさせろ」と言い返すと、今度は杉元の目尻にキスを落とす。 すると杉元はいつもの無機質な「分かった」という返事では無く、「うん。500円分な」と楽しそうに言って瞳を閉じる。 尾形が杉元の長い睫毛にそっとキスをする。 そして最後にやさしく唇を重ねた。

ともだちにシェアしよう!