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第二章 彗星・11
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「っ、ぅ……」
眠ったままの状態でありながらも、和宏はぴくり、と身体を震わせる。構わずに首筋をなぞるように舌を這わす。息遣いが次第に色を滲ませ乱れてくる。
見たところ。
大方、いまだ経験は無いのだろう。それどころか、この年頃にありがちな有り余った性欲にすら目醒めていない様子でもある。無論、精通くらいはしているだろうが。そう思いつつ、そ、っと浴衣の合わせをはだける。風呂で上せたのをここまで連れてきて浴衣を羽織らせただけなので、下着は着けさせていない。しなやかに伸びた両股の間にある陰茎は、熟し切らぬ果実のように、ひくひくと蠢きつつも勃起には至っていなかった。
少し、精をもらうだけで良いのだ。
何かしらの力を宿しているのならば、それは所持する者が生成する体液にも含まれる。女の場合は子壺に湛えるものであるし、例え交わったところでむしろ受ける側であるのだから判断が難しいのだが、男であるならばその心配もない。
妖の中には、情交によって人間や他の妖の精気を喰らう者がいる。我等天狗はその類ではないが、まったく出来ぬ、という訳でもない。加えて、修験道の流れを汲む、と言われる天狗の山は得てして女人禁制であることが多く、衆道においても、何ら抵抗を持たない。とある時代には見目麗しい少年が神隠しに遭えば、「天狗の情郎として攫われた」などという風評が飛び交ったとも言われている。無論、天狗の皆が皆そのような所業をするはずもないので、甚だ迷惑な言いがかりではあるのだが。
しかしそれ以前に、俺は……。
過去の罪悪が再び頭を掠める。否、違う。あの時のように、単に快楽を貪るようなことは断じてない。
あいつに……鞍に、ただ一度気を遣るような真似をしたのは、あいつを想うが故のことだ。
存在意義の空漠さに押しつぶされ、そのまま消滅の道を辿った過去の鞍を見ている俺は、この現世に転生して尚、過去の因果に振り回され混乱に食い尽くされてしまいそうなあいつを見るのが恐ろしかった。あの時は、あれしか方法が思いつかなかったのだ。
想いが無かったのでは、ない。そのはずだ。が、己の口から零れた「愛している」の言葉は、自分でもどこか虚しく響いた。
激しく錯乱していた鞍は、自分が一体何をされたのか大して覚えてはいないだろうし、俺もその時の事は以後一切口にはしなかった。それどころか、抱擁やキスですら二度としようとは思わなかった。なぜかしてはいけない、ような気がした。
そして。
火照ったままの胸を、波打たせ眠っている少年に目を戻す。これもまた、確認作業の一環でしかない。己にそう言い聞かせる。
我ながらひどく言い訳がましい、とは思いつつも、和宏の持つ気の正体を確かめたいとい
う欲求は、もはや止むことは無かった。
せめて事務的に事を運ぼうと、潤滑油を手にとる。内部を刺激して、直ぐに達するようにしてやれば良い。脚を押し上げ、油を纏わせた指を菊門から中に沈める。ねっとりとした熱が、指に絡みつく。
「……っん、ぅぁあ……っっ!」
今まで感じたことのない感覚なのだろう、痛みに耐えるような、それでいてどことなく甘さも伴った声を、和宏が上げる。沈ませた指がきゅ、と締め付けられる。
奥から刺激された和宏自身は、いくばくもなく熱を集めて屹立した。身体に見合って、勃起してもさほど巨きくはならない。舌を軽く絡ませつつ銜える。尚も内側を掻き混ぜ、舌と喉とで扱いてやる。
「っふ、ぁ……っや、な……に……?」
耐えきれずに目覚めたようで、先程よりもややはっきりとした声が耳に届く。
「な、にすん、だょ……っ!この、へん、たぃっ!!」
「いいから。すぐ済むから少し黙ってろ」
びくびくと揺動する腰を押さえつけ、俺は再び和宏の魔羅を咥え込む。抵抗しようと和宏は身をよじったが、舌の感触に身体が震え力が抜けたらしく、完全に振り払えるほどの力は無いようだった。大した苦も無く口腔で包み込める程度の大きさだ、含んだまま丁寧にねぶり続ける。まだ初々しい刀身は、それでも温度と硬さを増し、にわかに痙攣し始めた。
「っひ、ぁ……んぅ……っ!」
更に甲高い喘ぎとなる。それを合図に頤を上下に動かし、扱く速度を上げると、やがて和宏は頂点に達した。
「ん、ぁ、ぁああああんんンンン……っっ!!」
背中がびくん、と跳ね、口内に精液が放出される。俺はそれをごくり、と飲み込んだ。
自慰をしたこともろくにないのだろうか。粘度、濃度とも高い、若い白濁が熱さを保って喉を下る。
だが。
期待とは裏腹に、それそのものに俺が感じていたような力や気の流れを読み取ることはできなかった。
気のせいでしかなかったのだろうか、と思う。少しばかり失望し、少年の顔を見る。
荒く肩で呼吸し、丸い大きな瞳に涙を湛えながら、浴衣を引き寄せじ、とこちらを睨み付けている。当然だろう。
「なん、で、こんな、こと、すんだよ……」
消え入りそうな震えた声で、和宏が問う。
返答に詰まる。いくら享楽の為のみに行ったことではないとはいえ、明らかに己の欲望によるものだ。
「…………すまん」
そう、謝ることしかできなかった。このまま一言も口を聞かず、黙って逃げ帰られてもおかしくはない。
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