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第二章 運命③
その日の夕方、少しばかり暑さが和らいでから、祈は外へ出た。ずっと使っていたカッターの先が折れて使えなくなったからだ。祈はいつも通り、近所の行きつけの本屋に向かった。
本屋は冷房が効いていたが、正面のドアが開きっぱなしになっているため、店内はそれなりに暑かった。天井からぶら下がる古びた扇風機が、ガランガランと小煩い音を立てながら、精一杯の風を紡ぎ出し、本を楽しむ客に送っている。うちのオンボロ扇風機とどちらが古いだろうか、などと考えながら、祈は、店の隅にある文房具コーナーから、カッターの替刃を手に取った。
そして、レジに近づいていったとき、祈の足がふと、止まった。カウンターから少し離れたところ――手書きのPOPで『芥川賞受賞作! ついに映画化!』と大々的に宣伝され、大量の本が積み上げられていた。けれど祈の目を引いたのは、その本自体ではなく、その派手に宣伝された店の一角をじいっと真剣な表情で見つめる、ひとりの少年だった。
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