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第二章 運命④
少年は、何か自分の世の中に対する不満や怒りをその本にぶつけるかのように、力の込もった視線を、本の山に送っていた。
――それは、ほんの、数秒のこと。その瞬間、祈の耳からすべての音が消え、それまで彼の視界を埋め尽くしていた、たくさんの本棚も、本を楽しむ客も――その姿を、消した。カメラのピントが被写体を捉えるように、その刹那――祈の瞳の中には、少年しか、存在しなかった。祈は、息をするのも忘れ、ただじっと、自分の全神経を、その少年に注いでいた。
――音が戻る。視界が広がる。レジで商品をスキャンするピッという音。ガランガランと回る扇風機の声。目の前にあったはずの本と客が、徐々に祈の視界に戻ってきた。それでもまだ、祈は、その少年から目を逸らすことができなかった。
少年が一歩、二歩とそのコーナーに近づき、そっと、本を一冊、手に取る。そして、きょろきょろと不器用にあたりを見渡したあと――小さく駆け足をして、レジと逆方向にある出口から出ていこうとし――
――たところを、祈は、少年の腕を掴んで、止めた。少年は、祈の存在に気付かなかったのか、びくっと全身を強張らせ、まるで猛獣に遭遇したような恐怖をその瞳に滲ませながら、祈を見上げている。
「――お前、この本が、欲しいのか?」
「えっ」
祈は、驚く少年をよそに、彼が持っていた本をひょいと奪い取った。
「ここで待ってろ、いいな?」
祈が睨みを効かせてそう言うと、少年は更に縮こまった。レジで替刃と本を素早く会計した後、店の中にいる少年に「来い」とだけ言い、店の外へと連れて行った。
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