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第二章 運命⑦
翌日、祈は本屋に向かった。行く途中も、道路の隅から隅まで観察しながら――そして、本屋の中も確認したが、やはり、見当たらない。店員に確認したが、そういう落とし物は届いてないとのことだった。内心ひどく項垂れた。畜生。
店を出ると、向かいに公園が見えた。ちょうど木陰で休めるスペースもありそうだった。この日は炎天下。本屋まで、ネックレスを探そうと慎重に歩いていた祈の身体は、じわじわと火照っていた。額に流れる汗を腕で拭いながら、祈は公園の入り口へと足を踏み入れた。
公園には、夏休み期間のせいか、子供がわんさかいて、きゃあきゃあと騒ぎながら、遊具に登ったり、元気に走り回っていた。祈は、端のほうに誰も座っていないベンチを見つけ、そこへと足を向けた――ときに、気が付いた。公園の中央からすこし右――日差しがじりじりと照りつけるベンチに、昨日の少年が腰掛けていた。少年は、座ってはいるものの、下を向いて、動かない。他に連れがいるようにも見えず、祈は思わず近付いていった。
「――おい」
少年の肩を掴んだ。すると、緩慢な動きで少年が頭を上げる。彼の顔は、真っ赤だった。
「おい、お前……」
ぼんやりとしていた少年の焦点が徐々に合ってゆく。
「あ……あれ? 昨日の、ひと」
「お前、体調、大丈夫なのか?」
「え? あ……う、ん。あ、えっと……これ」
少年はズボンのポケットからもぞもぞと何かを取り出すと、祈に差し出した。それは彼が探していた十字架のネックレスだった。
「これ――」祈の碧眼が見開かれる。
「また、会えるかなって……で、今日、朝から本屋さんの前で、待ってたんだけど、でも、暑くて……ここで座って、待ってたんだぁ」
少年がふにゃりと笑う。昨日と違って、口調も、どこか覚束ない。祈は少年の額に手を当てた。やはり、熱い。息苦しいのか、呼吸も、その肩を小さく上下させながらしている。
「――馬鹿。どうせなら日陰で待てよ」
「う、ん……でも、さっきまで、ここも日陰だったんだよ?」
「とにかく、来い。このままじゃぶっ倒れるぞ、お前」
少年の手を掴んで歩き出す。が、力が入らないのか足取りもふらふらしている。祈は少年の身体を持ち上げ、両腕で抱きかかえると、足早に公園を出た。
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