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第二章 運命⑧
少年を家に連れて帰ると、布団に寝かせ、水分を摂らせた。とはいっても、水道水かぬるい麦茶しかなかったので、一度少年を寝かせたあと、ドラッグストアでスポーツドリンクと冷却シートを買いに出かけた。帰宅すると、僅かながらに少年の体調は回復していたようだった。
冷却シートを額に貼ると、少年はきゅっと目を瞑った。
「っ、つめた!」
「我慢しろ。それとこれ、飲め」
スポーツドリンクを渡す。少年は黙ってペットボトルを手にすると、口をつけた。相当喉が乾いていたのか、ごくごくと息継ぎもせず、一心不乱に飲んでいる。祈は、その姿を見て、ようやく胸を撫で下ろした。先程まではふらふらしていたが、今は意識もあるし、こうして自分の手で、しっかり水分を摂る元気もあるようだ。
満足気にスポーツドリンクを飲み終えた少年の口に、涎がついていたので、祈はそっと手を伸ばして、指で拭った。
「っ、なに?」
「涎ついてる。つーかお前、どんだけ喉乾いてたんだよ」
「……わかんない」
少年はこてんと首を傾ける。「ずっとあそこにいたから」
祈はため息をついた。「……まぁ、あんな馬鹿みたいに暑いところにいればそうなるか」
「う、ん……あの、ごめん、なさい」
「は?」
もじもじと、少年が言い澱んでいる。
「めいわく、かけちゃって」
祈は頬杖をつきながら、呆れた表情を浮かべる。
「……お前が、謝ることじゃない。それに――」指先で首元のネックレスを引っ掛けて見せた。「これも、お前のおかげで、見つかったことだし」
「……うん、昨日、落としてったんだ。すごいボロボロだよね、それ」
「あぁ」
「だいじなものだった?」
少年が自分の顔を見上げる。祈はゆっくりと瞬いた。この純粋無垢な瞳に、一体自分はどんな風に映っているのだろう?
「……あぁ」
祈の返事に、少年はぱあっと顔を明るくした。
「なら、よかった!」
「ただ――これからは、無理はするな。分かったか? 誰かを待つとしても、ちゃんと、涼しいところにしろ」
「うん!」
少年がにこにこと頷く。意識が朦朧としていた先程までとは大違いだ。子供の底知れぬ回復力に、祈は内心驚きつつも、少年が自分へと向ける、そのあまりに純粋な人懐こい笑みに、祈は、思わず口の端が引き攣ってしまいそうになった。
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