10 / 180

第二章 運命⑨

 その後、体調が回復した少年を本屋の前まで送り届け、二人は別れた。祈は再び自宅アパートへ戻り、夕食の支度をし、余った冷却シートを冷蔵庫の中へしまった。少年を寝かせた布団を、いつもの定位置に戻し、一人で晩ごはんを済ませ、風呂に入る。そして、濡れた頭をタオルで乱暴に掻きながら、壁掛けカレンダーの前に立ち、今日の日付に、マジックペンで素早く斜線を引いた。  一日の最後――夜、布団に入るタイミングになって、祈は、自分の身体がびっくりするぐらいに重く、疲弊していることに、そのとき初めて気が付いた。慣れないことをしたもんだ、と改めて今日の自分の行動を思い返すと、彼の表情が、わずかだが苦いものになった。そのせいか、普段は寝付きが悪く、布団に入ったあと、最低でも三十分は眠ることのできない祈が、その日はまるで何かに引きずり込まれるように、文字通り一瞬で、深い眠りについたのだった。

ともだちにシェアしよう!