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第三章 少年⑤
「――イノリ!」
目を開くと、視界いっぱいに碧志の顔があった。それに何故か――身体が、ずっしり重い。身動きがとれない。よくよく見ると、碧志が自分の腹に乗っかっていた。
「っ、お前……マジで俺の睡眠の邪魔すんなよ……」
朝に続いて、昼寝まで邪魔されるなど、たまったものではない。
「だって、イノリってばへんな顔してたから」
「へんな顔?」
「うん。なんかこう、眉毛がぐにゃってしてて、息もあらいし、すごく、くるしそうだった」
「……あっそ」
乗っかる碧志を適当にどかす。首元に手をあてると、脂汗がじっとりと滲んでいた。舌打ちをつき、ため息をこぼしたあと、窓の外を見る。気づけば、空は茜色に染まりつつあった。
「……もう夕方だな。お前、帰れ」
「えぇ~!? もう!? まだ帰りたくない~! ヤダヤダ~!!!」
駄々をこねる碧志を完全に無視し、祈は床に落ちていた『青』を碧志に渡す。
「……また来ればいいだろ」
「え?」
「ほら早く。暗くなる前に帰れ、ガキ」
えっえっ!? とびっくりする碧志の背中を押し、玄関の外へと追い出す。
「早く帰れ。寄り道すんなよ」
「う、うんっ! じゃあ、明日! くるからねっ!」
しっし、と手を返して追い払う。碧志は本を両手で握りながら外階段を降りていった。道路に出て、てこてこと歩いていく。彼の姿が完全に見えなくなるのを確認すると、祈は、壁掛けカレンダーの前に立った。
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