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第四章 青②
「じゃあ次にかいたときは僕に一番さいしょに読ませてね!」
「やだね」
「え~!? イノリのケチっ!」
「ケチじゃねぇ」
碧志がぷーっと、頬を膨らませる。祈はその膨らみを、左右の手で勢いよく挟んだ。
「ぶふう!!」
碧志の口から変な息が漏れる。
「もう! イノリってば! やっぱりいじわる!!!」
「意地悪じゃねぇ」と、祈は仏頂面で答えた。
そんな彼を、口を尖らせながら、碧志が不服そうに観察する。
「……イノリって、あんまり笑わないね」
「そうか?」と、祈は自分の顎に手を当てる。
「そうだよ~! イノリ、せっかくいけめんなんだから、もっと笑えばいいのに!」
「イケメンかどうかは関係ないだろ」
「うん。でも、きっと、笑ったら、女の子にいっぱいモテちゃうね!」
碧志が、にこにこと嬉しそうに微笑む。一方祈は『女』というワードから、とある過去を思い出し、その顔がぎくりと苦々しく歪んだ。
「あー……できれば、それは……勘弁したい」
「えっ、イノリ、女の子にモテたくないの!?」
祈は腕を組み、目の前の少年から向けられる、純朴な眼差しからそっと目を逸らした。「……まぁ、そう、だな」
正確には、モテたくないわけはでない。が、ここでわざわざその説明をしても、碧志には理解できないだろうし、それに、まだ彼には、女の恐ろしさを知ってほしくない。
「えぇ~! ヘンなの!」
碧志はのんきに笑い声を上げている。そんな彼を横目に、祈は、心の中で忠告した。いつかお前も、目の当たりにすることになるぞ。彼女たちの、きれいにメイクされたすまし顔の下に隠された、世にも恐ろしい女という怪物の本性を。
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