20 / 180

第四章 青④

「これ、忘れていったぞ」  翌日の夕方。帰る準備をしていた碧志に折り紙を渡すと、祈の予想通り、彼は苦い顔つきをした。 「あ……うん。あり、がと」  こそこそとズボンのポケットにしまう。 「お前、いつの間に誕生日になったんだ?」 「あ、えと……この前の日曜日」  祈は腕を組みながらカレンダーを見る。八月七日だ。 「ふうん」  碧志は、どうにも居心地が悪いのか、畳の一点を見つめ、祈と頑なに顔を合わせようとしない。 「お前さ、自分の誕生日、嫌いなの?」  ぱっと、碧志が顔を上げた。血の気が引いた真っ白な顔。そして、ぽっかりと空いた穴のような、真っ黒な、目。祈は彼の顔を見て、ぞくりと得体の知れない恐怖を掻き立てられた。あのときと同じだ。「――僕、親、いないよ」そう答えたときの、感情という感情が一切削ぎ落された、無の表情。 「……っ」  何故――聞いてしまったのだろう。祈は、そこでようやく我に返った。自分らしくない。碧志が、自分の誕生日に対して、何やら、負の感情らしきものを抱いている。そんなもの彼の表情や反応を見ればすぐに分かった。だったらそれ以上踏み込むことなんてない。無理に問いただす必要なんて、ない。なのに何故、俺は――

ともだちにシェアしよう!