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第五章 必然②
夏になり、碧志の七歳の誕生日当日に、家族三人で山にドライブに出かけた。誕生日のお祝いやら、家族でドライブやら、一見聞こえはいいが――この外出が、一家心中をするためだということを、碧志は密かに知っていた。車のトランクには練炭やらガムテープやらが積んであった。
それでも、碧志はいっさい抵抗しなかった。父と母が死んで、自分ひとりだけ取り残されるのはいやだったし、だからといって、父と母を説得する自信も――もう、なかった。
一人息子の碧志もまた、心底疲れ果てていたのだ。もうこれ以上――一体何をどうしろというのだ? 自分が金を稼げるわけでもない。借金を返せるわけでもない。だからといって父と母の喧嘩を止められるわけでも、ない。彼らが言い争っているときに、碧志が割って入っても、彼らはいっさい聞く耳を持たなかった。子供だから話に入れてもらえないのではなく、父も母も、家族の一員である自分を、見ようとすらしなかった。
人目につかないよう、夜に出かけた。片道三時間かけて山を目指した。山中の奥まったところに停め、準備をしようと父がトランクを開けたときに、母が急に泣きわめき始めた。「わたし、やっぱり死にたくないわ」
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