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第五章 必然⑤

「……おい」  はっと、碧志は意識を取り戻した。祈が神妙な面持ちで、自分の顔をじっと見つめている。 「お前、顔、真っ白だぞ」 「……え?」  祈はしゃがんで、碧志の視線に顔の高さを合わせた。 「……大丈夫か?」  碧志は、うまく答えられなかった。代わりに、こくん、と一度、小さく首を縦に振った。 「……悪かったな。いやなこと思い出させちまって」  今度は、ブンブンと首を横に振った。そもそも自分が話し始めたのだから。祈が、少しだけ表情を和らげる。 「……今は施設暮らしか?」 「うん」 「お前に合わせるわけじゃないが、俺も施設育ちだ」 「……え?」  驚く碧志から視線を逸らさず、祈がゆっくりと頷く。そして、碧志のズボンのポケットに、そっと目を落とした。 「その折り紙は、施設の子がくれたんだな」 「……うん」 「やさしい子なんだな」 「……うん」碧志の声が、ゆるむ。  ――そう、とても、優しい子なのだ。施設で暮らしているみんなの誕生日を、職員よりも誰よりもしっかりと覚えていて、当日になると、誕生日の子供の部屋のドアに、この折り紙の花を飾るのだ。みんな喜んでその子にお礼を言う。けれど、碧志はその気持ちをうまく受け取れない。むずかしい。受け入れるって、すごく、むずかしい。でも―― 「……イノリ」 「なんだ?」 「僕、イノリにたんじょうびおいわいしてほしい」  祈は目を丸くした。それはそうだろう。でも、なぜか碧志は、祈にならば、祝われたい――そう、自然に思うことができた。 「……分かった。じゃあ、ケーキでも買っとく」 「ショートケーキがいいな。イチゴいっぱい乗ってるやつ。ワンホール!」 「ワンホールはお前には食いきれない」 「食べるよ!」 「無理だな」 「絶対食べる!」 「絶対残す」  次の日、祈は本当にショートケーキをワンホール買ってきた。祈の予言通り、碧志はすべてを食べることは到底できず、結局祈が「もう食えねえ」と何度もつぶやきながらも、碧志が残した分を完食してくれた。

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