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第六章 救い①
夏の暑さもいよいよ本格的になってきた。唯一、和室にある扇風機になんとか頑張ってほしいものだが、これがまた、祈の行きつけの本屋にある吊り下げ式の扇風機と張れるほどボロく、もちろん、生み出す風もひたすらに弱い。よぼよぼのおじいちゃん並みだ。碧志は扇風機の前を陣取っては、ぜんぜん涼しくない! とぶうぶう文句を言っている。(だったらせめて扇風機の前からは離れろと言うのだが、それはそれで、どうにも嫌らしい。相変わらず、言動が矛盾した面倒くさいガキだ、と思う)
そんなある日、碧志がこんなことを言い出した。
「ねえねえ、イノリは、神様っているとおもう?」
「なんだよ急に」
碧志が祈の膝の上に乗ってくる。祈は読みかけの文庫本を閉じた。
「あのね――僕の隣の部屋の子がね、昨日トイレの掃除をサボったの。そしたら職員さんに怒られてね。『ズルしたりサボったりしたらダメだよ! 神様がちゃーんと見てるんだからね!』って言われてて」
碧志が自らの過去を祈に話してからというものの――過去とは言っても、山で事故に遭ったことをちらりと教えてもらっただけだが――彼は以前にも増して祈に懐くようになり、また、自分のことも少しずつだが、話すようになった。
「ふーん」
「で、イノリはどう? 神様っているとおもう?」
碧志の問いに、祈は母親のことを思い出した。
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