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第六章 救い④

 碧志が首を傾げる。この家に来客など滅多にない。が、祈はすぐに立ち上がって扉を開いた。  ――そこには、祈の想像通り、大家の老爺が段ボールを抱えて立っていた。 「あい、こんにちは。これ、おすそわけね」  祈は段ボールを受け取った。ずっしり重い。おそらく中には季節の野菜や果物が入っているのだろう。老爺はこうして、不定期ではあるが親からの仕送りのように、大量の食料を時々分けてくれる。 「ありがとうございます。いつも、助かってます」 「あいよ。それと一階に新しい人はいったからね。確か……八月入ってすぐのタイミングだったかな?」 「分かりました」  そしてこのアパートの入居状態をこうしてちらりと教えてくれる。祈のようなワケあり人間でさえも入居が許可されるこのアパートには、やはり祈と同様に、何かしら問題を抱えていたり、普通の住宅では入居の許可が下りない人間の割合が高い。今回入居した人物も、おおかたそんなところだろう。 「じゃあまた来月ねぇ」  扉を閉めると、部屋の奥にいた碧志が駆け寄ってきた。 「いまのひと、だれ?」 「大家」 「大家って?」 「この部屋を俺に貸してくれてる人」 「へぇ! やさしいひとだね! いじわるなイノリにお部屋かしてくれるなんて」 「おい」 「これなあに?」  碧志が段ボールの中を覗き込もうとする。祈は箱をその場に置くと、蓋を開けた。 「うわぁ! スイカだーっ!!!」  碧志が感嘆の声を上げた。まん丸の見事に大きなスイカが二玉も入っている。もちろん、それ以外にも新鮮な野菜や果物がぎゅうぎゅうに詰め込まれていた。 「お前、スイカ好きなのか?」 「うんっ! 大好きっ!」 「じゃあこれ、一個持って帰れよ。施設のみんなで分けて食えば?」 「いいの!?」 「あぁ、どうせ俺ひとりじゃ二つも食いきれねぇし」 「わーいわーい! スイカだスイカだ~!!!」  その日、施設に持って帰るのにも関わらず、碧志がどうしても今すぐスイカが食べたいというので、祈のぶんをその場で切って、二人で一玉を食べた。誕生日ケーキのときとは逆に、碧志は食欲が止まらず、一つのスイカをほぼ全部ひとりで食べ切ってしまった。おかげで祈は、小さな小さな一欠片しかスイカを味わえず、碧志のいない時間にこっそりとスーパーに出向いては、スイカを買い物かごに入れるなり、やはり子供は怪物だ、と痛感した。

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