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第六章 救い⑤

「イノリ、僕、これ行きたい!!」  八月も半ばに差し掛かった頃、碧志は一枚のポスターを祈の顔の前で広げて見せた。それはちょうど一週間後に開催される地域の夏祭りのポスターだった。 「却下」 「えぇっ!? なんで!?」 「人混み嫌いなんだよ、クソ暑いし」 「行こうよ~っ! ミホもリクトも行くって言ってたよ!」  ミホとリクトは、碧志が暮らす施設の子供の名前だ。 「その二人と一緒にいけばいいだろ」 「やだっ! 僕はイノリといっしょがいいの! イノリと夏祭りに行きたいのッ!」 「うるせぇ、失せろ」  祈は碧志の言葉に応じず、ごろりと敷布団の上に寝そべった。昨日は夜遅くまでデッサンしていたので寝不足なのだ。 「ねーーーえーーーー」  どすん、と上から碧志が降ってくる。 「っ、おい!」 「夏祭り! 行こう! ね!? ぜったいたのしいからっ!!!」 「うるせぇ、行かねぇよ。つーか、寝かせろ。マジで邪魔。どけよ」 「どきませーん」  ケタケタ笑いながら、碧志は祈の腰にまたがって揺れている。 「お前、マジで本当に……っ」  殺意さえ芽生えそうになったそのとき、祈の脳に閃光が一筋、流れた。 「――なぁ」 「なに?」  碧志が首をこてんと傾げる。 「夏祭り、行ってやるよ」 「えっ!? ほんとに!?」 「あぁ、その代わり――」

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