36 / 180
第七章 覚悟③
受賞記念の記者会見の日、祈の隣にはもうひとりの作家がいた。芥川賞には、祈の『青』――それともう一つの作品が選ばれた。福本 という男性作家の小説だった。彼は祈とは逆で五十歳での初受賞。非常に遅咲きといえよう。記者たちは、二人に交互に質問を投げかけつつも、やはり祈に注目していた。十三歳の天才がついに世に出てくるときが来た――と、どこか高揚しているようにさえ、見えた。そして、記者会見の映像が翌日のニュースで流れると、世間は慄き、熱狂した。
祈の顔立ちが美しく、かつ、青い瞳という珍しい容姿だったからだろう。出版社の電話は鳴りやまなかった。テレビへの出演オファーやインタビュー依頼が、数えきれないほどやってきた。そのひとつひとつを吟味する暇もなく、祈は片っ端から仕事の依頼を引き受けた。とにかく、金が欲しかったからだ。六歳のときに母親を亡くし、それ以来施設で育ってきた。小学校は卒業しているが、そのほとんどを登校していない。中学も、入学式に出て以来、全く通っていない。高校に行く意味も見出せなかった祈にとって、中学卒業後、自分で生活をするための資金を貯める、なによりのチャンスだった。
――しかし、そんな大量の仕事も、あるときからきっぱりやめた。
ともだちにシェアしよう!