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第八章 変異①
碧志はいつも朝八時ぐらいに祈の家にやってくる。(通い始めた当初は七時にやってきていたが、頼むからもう一時間だけは寝かせてくれと祈が直々に頼み、しぶしぶ八時に来るようになった)
そして、夕方、まだ明るい時間に彼を家から閉め出す。夜遅くなる前に、ちゃんと施設に帰ってもらうためだ。碧志の施設のルールがどんなものかは知らないが、祈が子供の頃に住んでいた施設は、門限がとても厳しかったのだ。とはいっても、祈自身は学校にはほとんど顔を出さず、一日中自分の部屋にひきこもって過ごしていたので、門限などあまり関係なかったし、同じ屋根の下に住んでいる子供たちともほとんど喋った記憶がない。そうして過去の自分と比べると――碧志はずいぶんと健康的で社会性の伴った生活を送っているように感じる。
玄関のドアを、コンコンと控えめにノックする音が、茜色の夕焼けが差し込む和室でぼんやりと過去の自分と碧志のことを行ったり来たり考えていた祈の耳に届いた。
――こんな時間に、誰だ?
直感で、老爺ではないことだけは分かった。祈は、首を傾げながらドアを開いた。
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