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第八章 変異②

 そこにはつい十分ほど前に、施設に帰るために出ていったはずの碧志の姿があった。 「お前、なんで――」  なんで戻ってきたんだ、という言葉が喉から出かかった。が、祈はそれをすぐに引っ込めた。碧志の様子が明らかにいつもと違ったからだ。不必要にあたりをきょろきょろと見渡して、怯えた表情をしている。とりあえず入れ、と部屋の中に彼を引っ張り込む。 「ご、ごめん……もどってきて」 「いいから。んで、何があった?」  碧志を座布団の上に座らせ、祈も彼の隣に腰を下ろした。 「えと……その、なんか……」  ちらちらと、臆病な瞳で碧志は部屋のそこかしこを眺めている。特に窓――彼の視線は窓をいったりきたりしている。祈は、立ち上がって、開けっ放しだった大窓を閉め、外から見えないよう、雨戸も引いた。 「あ、イノリ……あ、ありがと」 「……外が気になるんだろ?」 「う、ん……」  祈は、碧志が喋り出すのを待った。たっぷり二分ほど経った頃だろうか――碧志がようやく、口を開いた。

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