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第八章 変異⑤

 けれど碧志は、祈とならば――一緒にいたい、と思う。彼といる時間とだけは、普段自分の背骨にこびりついている孤独と絶望と喪失を、感じなくて済むからだ。彼の前でなら、子供らしく振る舞うことが、自分の中で許されるからだ。軽口も叩くし、我儘も屁理屈も言う。駄々をこねて、大人を困らせたくなる言動も、つい、とりたくなる。そういう自分の心の一面を、碧志は、祈の前でだけならばさらけ出せた。こんなことは、今までなかった。七歳の事故についての話も、自分から打ち明けたのは祈が初めてだった。事実、夏休みに祈と出会ってから、施設の職員や子供たちからもびっくりするぐらい明るくなったね、と褒められた。  祈の手が、やさしく、やさしく、碧志の髪を梳くように、撫でる。碧志は心地よくなって、目を瞑った――彼の腕の中は、とても、温かかった。

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