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第八章 変異⑦

「お前、明日からここに来るな」 「えっ」  碧志が固まった。 「しばらくは、施設にいろ」 「……」 「そのほうが安全だ」 「……イノリ、僕のこときらいになっちゃったの?」 「ちげぇよ」  祈は、碧志のすぐ横に座った。 「ここは見ての通りボロアパートだし、インターフォンもない。そもそもセキュリティがくそだからな。でも施設なら大人がたくさんいる。一緒に住んでる子供たちもいる。お前が安心して暮らすには施設にいたほうがいい」 「……もう会えないの?」  碧志がその丸い瞳をじっと見開いて、祈の回答を待つ。祈は軽く息をついた。 「別にそんなことは言ってねぇよ。ほとぼりが冷めたらまた来ればいいだろ」 「……それって、いつ?」 「……分かんねぇ。でも、そうだな……」少し考えて、祈は言った。「少なくとも、一週間ぐらいは施設で過ごしたほうがいい」 「……じゃあ、夏祭りは?」 「無理だな」 「っ、やだ! いっしょに行くってやくそくしたもん! お祭りでお面買ったりたこやき食べたりするんだもん!」 「無茶言うな。お前の安全が最優先だ」  もし夏祭りに出向いて、碧志が誰かに誘拐でもされたらたまったものではない。ただでさえ人混みがすごいのだ。一度はぐれたりすれば―― 「行くったら行くのー! 僕、イノリといっしょに行くんだもん! おまつり、行くんだもん!」  大声を上げ、碧志は祈の腰にしがみつき、駄々をこねる。 「……なぁ、おい」 「なに!?」  キッと鋭い目つきで、碧志が睨む。 「その、ほら……」  祈は、たどたどしく、言葉を紡いだ。 「――来年、一緒に行けば、いいだろ?」  碧志の動きがぴたりと止まった。祈はごくりと唾を呑んだ。 「来年もいくけど、今年だっていきたいのーっ!!!!」  がくりと、祈は肩を落とす。この調子では、今晩は、眠れないかもしれない。

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