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第八章 変異⑭

 翌朝、約束通り碧志を施設まで送り届けると、祈は事情を説明した。碧志と夏祭りに行くと約束したが、状況も状況なので、遊びに行かせることに抵抗がある、と。すると職員はこう言った。 「じゃあ施設のみんなで行きましょうか」  碧志が前にも言っていたとおり、施設の子供たちは(くだん)の夏祭りに参加予定だ。そこに施設の職員も数名付き添いに来るそうで、碧志も子供たちと一緒に、そして職員が見守る中、みんなで行動すれば安全だろう、と。 「それで、そのなかに祈さんも混じっちゃえばいいんですよ」 「えっ」 「それ、いいね! 僕もイノリのこと、みんなにしょうかいしたいっ!」  足元にいる碧志が、陽気に跳ねる。 「でもその、見ず知らずの俺が混じって、子供たちがその……びっくりしたり、とか、怯えちゃったりとか」  思わずたじたじになりながら、祈が言う。 「大丈夫です! 碧志くんがよくあなたのことを施設のみんなに話してますから。むしろすぐ懐いてくれると思いますよ」  ――ということで、祈も、施設のみんなと共に、夏祭りに参加することになった。 「ねぇイノリ~、どれがいいとおもう?」 「分かんねぇよ。つーか電話じゃ分かりっこねぇだろ。どういう柄だとか、ちゃんと口で説明してくれねぇと」 「あ、そっか! ごめんごめん」  祈は携帯電話を耳元に当てながら、苦いため息をついた。夏祭りまでの数日間、やはり碧志が祈の家に遊びに行くのは危険だと判断し、碧志は施設で過ごしている。そして、会えない代わりに、せめてもの交流として、毎日電話をしている。(というか、碧志が電話すると言って聞かなかった)  そして、今日もここへやってきたアオは、祈が電話をしている姿が珍しいのか、遠巻きにだが、じっと祈の手にある携帯電話を観察している。

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