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第八章 変異⑫

 祈は、息を止め、おそるおそる、顔を下に向ける。 「……え?」  ――碧志が立っていた。彼は何も言わず、じっと、神妙な面持ちで祈を見上げながら、祈の足元から離れようとしない。 「おい……なんで……お前が、ここにいるんだ」  碧志は答えない。その黒目がちな瞳を、ただただ、真っ直ぐと、祈に向けている。  ――そのとき、祈は気が付いた。  碧志のその瞳の中に、ほんのわずかに、自分が持つ包丁に対して、非難の色が浮かんでいることに。そして、祈の行く末を見守るように、心配と不安と憂いとが、彼のその縋るような視線の奥深くに、確かに、こめられていることに。 「……っ」  祈は――途端、どうしたらいいのか分からず、呆然とした。手の中にある包丁と、足元にいる碧志とを、交互に視線を向けた。  その後、祈がどれだけ声をかけても――彼は、何も言わなかった。  ――そこで目が覚めた。

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